シロの飼い主が見つかったという電話だった。シロを保護してから数ヶ月もたっていたので、もう飼い主は現れないだろうと心のどこかで思っていた。それは紗代子も同じだった。
週末、シロの飼い主が引き取りにきた。飼っていたのは隣の県の老夫婦で、孫が誤って首輪をはずしたところ逃げてしまったのだと言った。家の近くにいるものだと思い探していたが、たまたまこの近くを通りがかった知り合いが、お店に貼られた迷子犬預かりのビラを見て老夫婦に連絡してくれたそうだ。何度も何度も頭を下げられ、今までの費用は出すと言われたが、シロと過ごした数ヶ月は健一と紗代子にとってもかけがえのないものだったので断った。
「一つお聞きしたいのですが、シロは無くしものをよく見つけてくれました。昔からそうでしたか?」
気になっていたことを尋ねると、そんなことは一度もないと驚かれた。老夫婦に連れられて歩くシロは老夫婦と同じ速度で歩き帰って行った。
シロがいなくなってから数日、健一も紗代子も日課であった散歩をする気力が無くなっていた。しかし、咲也が毎日のように学校帰りに家へ寄ってくれるので、また散歩をするようになった。小学校の前を通ると、犬のおじちゃんと呼ばれ、子供たちが集まってくる。今日あった出来事だとか、最近流行っているものだとか、シロに会いたいね・・・だとか。子供たちと話をして少しずつシロのいない穴が埋まっていった。
三月、卒業の季節が迫っていた。最近になって直也の言葉をよく思い出す。
『来年母さんの実家に引っ越すんです。』
せめて引っ越す前に二人にしてやれることはないだろうか。そう考えながら引越しまであと五日に迫った日、チャイムが鳴り玄関を開けると美央と瞬が立っていた。どうやら二人も咲也の引越し前に何かしたいと考えているようだった。
「私考えたの。皆でお花見出来ないかな?咲君、前からお花見したいって言っていたでしょう?」
「でも桜が咲くのってもう少し先じゃない?」