小学校が夏休みに入ったある日、直也が一人で訪ねてきた。シロに探して欲しいものがあるらしい。
「うまく話せないですが・・・俺が保育園の時に親が離婚したんです。父さんが家を出ていったあと、数少ない家族写真を持って、桜の木の下に埋めたんです。捨てようと思っても捨てられなくて、埋めたような記憶はあるんだけど、どこに埋めたのか思い出せなくて。もしかしたらシロなら探せるんじゃないかと思って。」
少し俯き加減に話す直也にどう声をかけていいものか迷っていると紗代子が質問した。
「どうして急にその写真を探そうと思ったの?」
「皆にはまだ話していないんですが、来年母さんの実家に引っ越しするんです。俺の卒業は待ってくれたけど、咲也の卒業までは待てないって言われました。父さんの思い出、何もないけどせめて写真だけでもと思って・・・。でも六年以上前だし、シロも探しようがないよな。」
そう言ってシロを撫でると、ペロっと直也の手を舐め、外に出たいと催促した。まさかとは思ったが、健一が急いでリードをつけ、柵の外へ出すとシロは走り出した。
途中直也にリードを渡し、先に行ってもらい後からついていくと、そこは小学校のグラウンド横だった。あの桜並木のどこかにあるのだろうか。シロはクンクンと地面を嗅ぎながら一箇所を掘り出した。いつもは掘る真似だけだが、どんどん掘っていく。直也も手伝い、健一も手を使って掘ると、コツンと音がした。出てきたクッキー缶を地面から取り出し、直也が開くと 中から四枚の写真が出てきた。一枚は赤ん坊を抱っこしている若い男の写真。残り三枚は家族四人で花見をしている写真だった。赤ん坊の咲也を抱く母と、父親の膝の上で嬉しそうにピースをしている直也。写真を見た直也の目から涙がこぼれた。
「俺、父さんのこと好きだった。よく覚えてないけど、大好きだった。」
寂しいと言えず、無理に大人になろうとしていたのかもしれない。せき止めていたものが溢れるかのように直也は泣いた。
夏休み中、子供たちはもちろん、近所の大人もシロに会いたがり、健一の家は賑やかだった。二学期がはじまってからもそれは変わらず、毎日が慌ただしくも楽しく過ぎていった。季節が秋から、冬に変わるある日のこと、それは突然終わった。そろそろシロの居場所を玄関に移そうかと紗代子と話をしていたら、直也から電話が掛かってきた。