小説

『陽のあたる帰り道』清水健斗(『姥捨山』)

「雄星はね、ママにとって太陽みたいな存在なんだよ」
「太陽?」
「そう。太陽ってピカピカしていて、暖かくて、見てるだけで元気出るだろ?だから、雄星がママの太陽になって、ママにずっと元気をあげて欲しいんだ」
「う〜ん、よくわからないけどわかった!僕、ママの太陽になる!」
「よし!約束だ!ママに言うと照れちゃうから内緒だぞ」
 小指を雄星に差し出し、指切りをする。
「お待たせー」
 遠くから、理沙が歩み寄って来る。それを見つけ、雄星が理沙の方へ走って行く。

 帰り道、雄星を真ん中に三人並んで歩いた。
「ママ、今日の夕食は?」
「カレーだぞ〜」
「やったー!!」
 雄星が、ぴょんぴょんとその場でジャンプした。僕は足を止め、理沙と雄星が並んで歩く姿をしばらく眺めながら、僕はあの日、母が残した笑顔の意味を考えていた。
 あの時は、僕に心配をかけない為に母が気をつかってくれたのだと思っていたが、今ではあの笑顔の意味がそれだけでは無いと僕は思っている。
「パパ〜、どうしたの〜?はやく〜」
「ああ、今行くよ!」
 身体をめいいっぱい使い手を振る雄星に、僕は駆け寄り隣に並んだ。僕が隣に並んだのを確認し、雄星が理沙の方を見て言った。
「ママ、僕ねママの太陽になる!」
 理沙から視線を僕の方に移しいたずらっぽく舌を出す雄星に、(バカ!)と口だけを動かす。
「太陽?なにそれ?」
「ないしょ」
「もう、変な子ね〜」
 僕も理沙も、自然と笑顔になり、そっと三人手をつないだ。
 夕陽に照らされ真赤に染まった幸せの帰り道を3人で歩いている。ずっとずっと歩いていく。

『2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると言われている。それに対し、介護職員は約30万人不足すると言われている。近い将来、介護施設が姥捨山とならない為にも、我々はこの問題に真摯に向き合わなければならない』

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