小説

『走れ!亜利子の運動会』岡田京(『不思議の国のアリス』)

「コケコッコー」
 にわとりの鳴き声が、どこからか聞こえた。砂壁ウサギが亜利子の手を引っ張る。
「もうすぐ夜明けだ。夜明けになると穴がふさがってしまう。早く帰らなくちゃ」
 亜利子と砂壁ウサギは穴から外へ飛び出し、光の道を走った。道の真ん中くらいで、ポケットから賞品の金色のお月見団子が転げ落ちた。
「待って、お月見団子、落としちゃった」
「待てないよ、早く、早く」
 砂壁ウサギは降り向きもせずに、どんどんと進んでいく。仕方なく亜利子も走り続けた。
 庭に降り、窓から部屋へ入ると、勢いよく砂壁ウサギは砂壁へ、亜利子はベッドに潜り込んだ。
 どのくらいたっただろう、チュンチュンと雀が鳴き始めた。窓から朝の陽ざしが射し込む。
「今日の晴れは、私のおかげなんだから。でもいいんだ、運動会、もうやってきちゃったもんね」
 手のひらから金木犀の香りがする。いつの間にか亜利子はぐっすりと眠っていた。

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