家の周りの田んぼの田植えが終わり、田植え機を軽トラックに載せおじいちゃんと父が先に上の田んぼに向かう。親戚内で“上の田んぼ”は共通語であった。田植え機とおじいちゃんを降ろした父が家に戻ってきて、苗とおじさんを乗せて戻っていく。子どもたちは走ってそれについていく。車は段丘の上までぐるりとまわらないとならないのだが、子どもたちはけもの道を通って直進し、近道をする。学校の帰りにこの道を通ることがあったが、みんなといっしょだとわくわく感が違う。知ってる道なので、ここだけはとちょっとだけ得意になってみんなを誘導する。
「ここ、毒きのこあるからみんな気をつけて!息も止めて通るんだよ!」
茂みに生えてるきのこは、子どもにとって全部毒きのこなのだ。私がわざとらしく息を止めて見せるので、みんなもまねて息を止めて走って通りぬける。そんな冒険をしながら、上の田んぼにつく。上の田んぼには大きい川が流れており、そこから用水路を通して田んぼに水を引いている。まだ15時。ちょうど良い進捗状況である。川をのぞくと、たにしがいた。
「ねー!たにしいるよ!」
「見るー!どこどこ?」
みんな興味深々な様子で集まってきて、捕まえては観察した。明日の夜ご飯はみんな一緒には食べないので、田植えが終わり次第いとこたちは帰っていってしまう。みんなと一緒に遊べてこんなに嬉しいはずなのに、もう明日のお別れのときのことを考えている。口には出さないが、心の中ではもう寂しさでいっぱいだ。今日の晩ごはんは、お寿司の出前をみんなで食べることを思うと、よりいっそう胸がきゅうっとなった。たにしを観察するふりしてそんなことを考えていた。
子どもたちは遊びながらプランターをトラックまで運び、父親の運転で子ども2,3人が同乗し家と上の田んぼの往復をする。夕暮れになるころには手伝いと遊び疲れで、みんなくたくたになった。妹は幼稚園生なので、2往復めぐらいのときにはもう家に残って昼寝を始めていたようだ。妹は眠くなってくるとかんしゃくを起こすので、寝ていてもらった方がこちらも都合が良い。田植え機は上の田んぼに置きっぱなしにして、トラックに人間のみ乗って帰路につく。まだ完全に暗くはないが、日が陰ってくると人の気配がない田んぼはちょっと怖い。みんな「おばけがでるーっ!」と言ってトラックへと駆け寄る。父が運転し、おじいちゃんが助手席、おじさんとこどもたちが荷台に乗る。おじさんは3人姉弟の末っ子なのでやはりお調子者である。
「なんだお前たち、たにし持ってんのか?味噌汁いれて食ってみろ、うまいぞ!わはは」
冗談で言ってるのか、本気なのかこのときは分からなかった。正直今でも分からない。私が保育園に通っていた頃、家の冷蔵庫にはイナゴの佃煮が夏から秋にかけて常備されていたので、もしかしたらおじさんが子どもの頃はたにしも食べていたのかも知れない。
「お前ら靴洗ってから家は入れよ」
トラックの荷台で運ばれる小旅行が終わり、エンジンを止めた父が一声放った。長靴を見ると泥だらけである。井戸で順番に洗い流し、終わった順に家にダッシュし茶の間のテーブルにつく。出前寿司のまるい大きな黒い皿が3つも並んでいて、まだラップがかけられている。
「わー、お寿司だお寿司だ!特上いっちょうあがり~」