妹はさっきまで見返していたシールブックを、いとこのお姉ちゃんにもう見せている。
自分は人見知りするので、慣れるまでは母親と台所にいて様子を伺うのである。こっそり茶の間の様子を見ようとして、おばさんに見つかった。
「だいちゃんおはよう、お母さんのお手伝い?えらいね」
「あー、だいちゃんだー」
同い年のたつやにも見つかった。ちょっとだけ恥ずかしくてもじもじしながら挨拶し、茶の間に行くと、キャラクターのカードがちゃぶ台にずらりと並んでいた。
「わー!こんなにたくさん集めたの?あっ、これおんなじのもってるよ、見せてあげる!」
3人姉弟のいとこたちは自分の学区より少しだけ都会の地域に住んでいるので、キャラクターカードなどいつもたくさん持ってるのである。勉強机の引き出しからカードを持ってきて、見せたことに満足し、いよいよ大人たちから声がかかるのである。
「さーはじめるぞ」
二日がかりの田植えの始まりである。
子どもたちは作業着なるものを持っていないので、汚れても良い服装で田植えの手伝いに挑む。田んぼに少し入ることもあるので長靴をはく。田んぼはぬかるんでいて思いのほか足が吸い込まれていくので、身動きが取れなくなった事さえある。もう少しであぜ道に戻れるのにというとこで吸い込まれたときは、長靴を放棄して家に帰ったこともある。おじいちゃんが田植え機を運転して、もう最初の1反めを始めようとしているところである。おじいちゃんの息子である父親とおじさんが田植え機に苗をセットしたり、トラックでビニールハウスから苗を田んぼまで運搬する役割を担う。子どもたちの役割は、苗の引越しが終わったプランターをせっせと井戸のところまで運び、土を洗い流し天日干しするのである。今日は太陽がやわらかくあたりを照らしており、気持ち良い風が吹いている。数時間もすれば乾くだろう。最年長の4年生のいとこのお姉ちゃんの指揮で子どもたちはチームワークを発揮する。
「ゆうた!ふざけないでちゃんと洗ってよ!お母さんに言うよ!」
「ちゃんとやってるよ~だ!ちゃらり~鼻からぎゅうにゅう~!」
やはりどこの家庭も末っ子はお調子者に育ちやすいのだろう。母親たちはというと、お昼に向けて炊き込みご飯などをこしらえている。総勢10人分以上の食事を準備するので、大忙しである。買い物は前日に済ませてあった様子だ。来客者用のお茶碗や箸など戸棚から出してあり、普段使わない大きさのなべがコンロに乗っている。いつもの休日のお昼ご飯とはだいぶ様子が違うのが見て分かる。
「お昼にしましょう、おとうさんたち呼んできて」
12時すぎになり、休憩の声がかかる。子どもたちはいっせいに田んぼに向かって走り出し、父親たちに「お昼だってー!」と叫ぶ。まだ3反ほどの進み具合であるが、今日中のノルマに対してはちょうど良い配分である。明日は家から離れた河岸段丘の坂の上にある田んぼまで行き同じように分担して田植えをする。まだまだ序章である。みんなでわーっと走りながら家の中に入り、冷蔵庫を開けると、ジュースやビールがずらーっと並んでいる。ビールは夜に大人たちが飲むのである。その中にホッピーも見つけた。女性陣が飲む用である。子どもたちは昼でもジュースを飲むことは許されているので、茶の間のテーブルまで運び、準備を手伝う。茶の間のテーブルの横に折りたたみ式のテーブルを置いて、子どもたち用のスペースが完成する。献立は、鶏肉や根菜が入った炊き込みご飯、から揚げ、菜っ葉のおひたし、かぶやきゅうり、なすなどの漬物、わかめと豆腐の味噌汁。