胸をときめかせながら、豪華なリムジンの奥へ足を踏み入れていきます。色とりどりのミラーボールが踊るようにピカピカ光る中、ウエルカムドリンクが出されました。
「おつかれさまです。ホッピーをどうぞ」
「ホッピー?」
不思議そうに訊き返した杏珠には答えずに、老父は備えつけの小さな冷蔵庫をパタンと閉めました。きりっとした顔つきで、すばやく運転席に乗り込みます。
黒いリムジンはスケートリンクを滑るように、暗い夜道をぐんぐん走っていきます。
「どんな味がするのかしら。試しに、ちょっと飲んでみましょう」
レトロな茶色い瓶にストローをさして口をつけると、力強いホップの香りが鼻へ抜けていきます。カラカラに乾いていた喉は潤い、心はルンルン弾んでいきます。
さらにこの先、どんなサプライズが待ち受けているのだろうとわくわくしながら、杏珠は車内に流れる穏やかなジャズに耳を澄まします。
どのくらいの間、冷えたホッピー片手に、ふかふかのソファにどっぷり身を預けていたことでしょう。
車のスピードは徐々に落ちていき、片栗粉の袋を踏みつけたような音が、キュキューッと響きました。白髪の老父がハンドルから手を離して、おもむろに振り返ります。
「お嬢さま、着きましたよ」
音楽が消されて、左どなりのドアが大きく開かれました。その隙間から、激しい雪風が囂々と音を立てて吹き込んできます。
まじまじと見てみれば、なんと白一色の雪景色が、辺り一面に広がっているではありませんか。さらに驚くべきことに、息をのむほど立派なお城が、美しい銀世界の真ん中に堂々と聳え立っていました。
(あのお城の中では、いったい何が行われているのかしら。
パレードかしら? それとも、パーティー?
まさか、わたしに内緒で結婚式を前倒しにしたなんてことは、さすがにありっこないわよねえ)
実に、想像をはるかに超えたサプライズです。まるで、おとぎ話の世界に迷い込んでしまったかのように感じられてなりません。
「こちらへどうぞ。滑りやすいので、くれぐれもお足元にお気をつけくださいませ」
「え、ええ」
杏珠はどきどきしながら、雪が降り積もった原っぱに降り立ちました。まっ白いコートのポケットに両手を突っ込み、背中を丸めて、小走りで老父のあとに続きます。
「お嬢様、コートはこちらでお預かりいたします。さあ、みなさんがお待ちかねですよ」
細かな薔薇の装飾が施された重厚な扉が、厳かに開け放たれました。その途端、杏珠の目に、わっと驚くほど絢爛たる景色が飛び込んできました。
「まあ、すてき。なんてエレガントなの」
壮大な絵画が描かれた天井から、豪勢なシャンデリアがぶらさがっていきます。ワイン色のカーペットが床にすきまなく敷き詰められていて、煌びやかなステンドグラスが壁に飾られています。