頼み込んで担当者を紹介してもらい、商談に臨んだがあまり反応がよくない。いま使っている発泡スチロールに比べて再生紙100%で環境にもやさしいし、納品後分別も不要だから納品先にも好評、コストもさほど変わらない。もちろん衝撃吸収能力は実証済み。さらには原油価格の変動を受けないので比較的値段が安定している。といくつも効果的なセールストークを繰り出したのだが。
発泡スチロールから置き換えない理由はないのだが、なぜ分からないのだろう。
帰社し、課長に報告。
「発泡スチロールが如何にダメで、それに比べて紙製が如何にいいかって力説したろう?」
そりゃそうです。
「だからダメなんだよ。」
え?
「いま使っているものをけなされたら誰でもいやな気分になるだろ。それも今日初めて会った人間に、いきなり、だぞ。」
え?いや、分かりますけど、でも、置き換えてもらうのだから。じゃぁどうすれば。
「そこをよく考えないとな。お子ちゃま。」
そう言うと課長は読みかけの書類に目を落としてしまった。
とりあえず、「分かりました」「申し訳ありません」と、なにが分かったか、なにに謝っているかまったくもって不明確ではあるが、こういうときには便利な言葉を残して課長の前から自分の席に戻る。
はてさて。
困った。
困っていてもしょうがないので、課長の言葉通り、よく考えて、みよう。
まず、紙製の良さを力説するのがダメだと。それから、いま使っているものをけなされるのが嫌だと。2つ目はまだ分かる気がする。1つ目はなぜダメなんだ?
結論の出ないまま、頭の中で堂々巡りしていると、
「なんだ、どうした?お子ちゃま?」
何度も同行させてもらった先輩が外回りから帰ってきて声をかけてくれた。
事情を話すと、
「あー。買ってもらいたいなら、売り込むな、ってやつね。」
なんですか、それ?
「俺と同行して緩衝材買ってもらった先あっただろ?あれ、どんな話の流れだったか、覚えてるか?」
覚えています。正直、そのときとほぼ同じ話をしたんです。
そう答えると、
「そっか、悪いことしちゃったな。勘違いさせちゃったみたいで。実はさ、お前連れていく前に地ならししてあったんだよ。」
え?地ならし?
「『今度うちで、紙で緩衝材作って、それ売れって言われてるんですけど、どう思います?』ってあの会社の親しい担当者に相談したんだ。雑談ぽくね。」
え?