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『はたらいて』室市雅則

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 二十リットルのビア樽、瓶のぎっしり入ったケースなどなど、ユキオにとってはどれも馴染みのあるものだったが、家に帰ればクタクタになった。居酒屋だってずっと立ち仕事だったから、体力には自身があったが、使う筋肉が違うらしく、全身が筋肉痛となった。
 そして、生活のリズムが変わった。朝起きて、昼に働き、夜に寝る。
 運転席に差し込む太陽の光は明るくて、疲れて引きずるように帰る夜道は暗くて、これはこれで良いように思えた。
 何より、ヤヨイの顔を見られる時間が多くなった。
 ジェニファーも喜んでくれている。だから、ユキオは嬉しかった。

 数ヶ月があっという間に経ち、生来の愛嬌の良さで、ユキオは酒屋の名物男となった。『ユキオちゃん』と呼ばれれば、『あいよ』と首に巻いた白いタオルをたなびかせた。

 今日もジェニファーが作ってくれた弁当を手に出勤をすると、会社の事務から配送先リストが渡された。
 どの店に、どの商品をという内容が記載されており、それを確認しながら、トラックに荷を積み、配送をする。
 大抵が馴染みの店であったが、一つ新しい店が記されていた。住所を見ると見覚えのある住所であった。
 注文されているのは、ホッピーがひとケース。
 ホッピーを扱うとは分かっているじゃないかと思いながら、ユキオは荷積みを終えて、出発した。

 今日の最後の配送先は、ホッピーひとケースだけの新しい店であった。本当は、最後にしなくても良かったのだが、途中で思い出したのだ。
 自分の店『ぎょろ』があった住所であることを。だから、躊躇が生まれた。忘れたい思い出というわけではなく、むしろ一度でも自分の店を持てたことは僥倖だったと思う。だからこそ、今、どうなっているのか知りたくなかった。配送の時だって、遠回りになっても『ぎょろ』があった所は通らないようにしていた。
 だが、仕事であれば仕方がない。
 他の仲間に頼むという手がないわけではないが、それは怠慢であろうと思ったし、これも何かの縁だと思うことにした。

 自分が店をやっていた時に、配達人が車を止めていた場所と同じ所に、ユキオも車を止めた。そして、荷台からホッピーのケースを下ろして、夕日の差し込む裏通りに入った。
 餃子屋から始まって、牛タン専門店と続く並びは変わっていなかった。その隣にあったスナックは解放的なカフェに変わっていて、緑がたくさん溢れていた。
 『ぎょろ』に近づくにつれて、ユキオの目線は下に落ちていた。まだ正面から、見る覚悟ができていない。だが、歩みは進み、ついに『ぎょろ』のあった店の前にたどり着いた。視界の端に店のポストが見えた。自分も使っていたスチールのポストで、『ぎょろ』とマジックペンで書いた厚紙を入れていた。
 意を決し、店の入り口を見上げた。
 変わっていない。店構えが何も変わっていないので拍子抜けしてしまった。ちょっと長い旅行から帰って来たような気分になった。
 見渡すとポストの厚紙が見えた。
 『ぎょろ』
「ん?」
 思わず声が出た。目を細めてよく見る。
『きょろ』だった。
 似たような名前をつけるな思っていると、玄関が開いた。反射的にユキオが反応した。
「毎度、タゴです。ホッピーお持ちしました」
「おおきに」

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