小説

『光は揺れる』長谷川蛍

 振り返ってみると、私の住む街が一望できた。どこか遠くに見える街の光は、あるものはゆっくりと、あるものは消えている時間がしっかり認識できないくらいに速く、それぞれのリズムで点滅していた。絶え間なく光り続けているように見えても、そこに間があることに驚きつつ、その間隔の違いは何なのだろうと、ふと疑問を抱いた。
 光の点滅の速さはそこに暮らす人の鼓動の速さか、あるいは生き方の鏡像だろうか。だとすると、私の家の点滅を見ることができたら、周りと比べてはるかに速く点滅しているはずだった。家族皆が何かに追われるように、忙しなく生きているのだから。
 どこを境界として区切られているのかはわからないので、はっきりと確信はできないが、視界には隣町も侵入してきているのだと思われた。それくらい広大な景色が目の前に広がっている。気がつかないうちに随分と高いところまで登ってきたらしい。
 だけど、高さより気になるのはこの辺り一帯の寂然とした様子だった。家は確認できても、そこに人の気配はあまり感じられない。一軒の家の窓から光が漏れていて、誰かが住んでいるのは間違いないが、生命の鼓動は全く伝わってこなかった。
 ふと空を見上げてみると、月が恐れを抱いてしまうほど綺麗で、星々も騒がしく、でも厳かにその周りを飾り立てている。人工の光がその存在を主張してこない。闇がこの一帯を包み込んで、都市の喧騒から遠ざかり、正しい夜に導いていた。
 動く気になれず、ただなんとなく立っていると、私の来た道から郵便配達のおじさんがバイクで登ってきた。私の近くにバイクを止め、唯一光の漏れていた家のポストに郵便物を入れた後、腰をかけてポケットから煙草を取りした。私の方を向いて、人懐っこい笑顔を見せながら、吸ってもいいだろうかと箱を振った。頷く代わりに、私も鞄から煙草を取り出して振って見せた。
 嬉しそうに煙草をくわえ、ポケットをしばらく探ってから、私のそばに近づいてきて、「火をお借りしても? どうやら忘れてしまったようで」と言った。
 鞄を探してもライターが見つからなかったので、走ったせいで暑くなり、脱いでいたコートを探ってみると、右のポケットから青色のライターが出てきた。それをおじさんに手渡して、そのままおじさんが煙草に火をつける様子を黙って眺めていた。
 カチッ、カチッ。三度目のライターの音は、姿の見えない車が走っていく音で上塗りされた。その三度目の試みでタバコに火がついていた。
 あまりにも美味しそうに吸うので、近くの大きな石に腰をかけて、私も煙草に火をつけてみる。
 確かに美味だった。
「だいぶ暖かくなってきたねぇ」
「そうですね」

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