小説

『○取物語』室市雅則(『竹取物語』)

ツギクルバナー

 天に向かってまっすぐに伸びた竹の中。
 その子は膝を抱えながら煩悶していた。
 三寸ほどの身をよじらせていた。
 これからこの竹やぶに現れるお爺さんに見つけられ、育ててもらう予定なのだが、どうも自分の股間にぶら下がっているモノにとてつもない違和感を覚える。
 先ほどまで、それを感じていなかった。
 しかし、お爺さんへの合図のために燦然と輝きを放ち始めると、どうもしっくりこないというか、これじゃないという感覚が芽生えた。
 体と心にズレがあるようなちぐはぐな感じ。
 モヤモヤして、とりあえず自分の手と足を眺めたけれど、何の感慨も浮かばない。その手が自然と股の間に生えているモノに伸びた。
 手がそれに触れて、気が晴れない原因はそれだとはっきりした。
 どうやらそれがあるということは、自分は性別的には男であることは理解できる。
 だが、どうも間違えているように思えるのだ。
 光り輝いているのが不気味だからという理由ではなくて、ここにあることが問題なのだ。
 まだ空の青さも、井戸の深さも知らない。知っているのは、竹の青臭さと輝く自分の股間くらいだが、想像しても女の子に恋ができる気がしない。
 この体からすれば、女性に恋をし、白粉の匂いや紅の赤さに胸をときめかせたり、思いを募らせる相手への和歌と文付枝に頭をひねったりするのがレールに乗っていると思う。
 しかし、自分は白粉でおめかしをし、紅で彩って美しくなって、真っ赤な紅葉に情熱的な和歌が結ばれた文付枝を受け取りたい側なのだ。
 それを正しくないとか、気持ち悪いと思うかもしれない。
 そんなの知ったことかである。
 だって女の子だもん。である。
 しかしながら、現在の外見は完全なる男の子である。
 だから、竹の中で煩悶していた。

 竹から出て行く前にこんなことが待ち受けているなんて思いも寄らなかった。
 思い描いていた将来のビジョンはこうだった。

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