小説

『桃太郎Take2』散田三郎(『桃太郎』)

 モモタロサン モモタロサン
 オコシニツケタ キビダンゴ
 ヒトツワタシニ クダサイナ

 少年は嬉しそうににこにこした。彼はかねてから、祖母の言い付けに背いて、村の子供達と友達になって一緒に遊びたいとずっと願っていた。その願いが叶えられたのである。
 小汚い声で歌をがなり立てた後、彼等は一斉に少年に襲い掛かった。

「桃糞」
「おい桃野郎」
「早く黍団子よこせ」
「そのお腰に付けた奴をだ」
「くれても子分にはならないがね」
「お前には黍じゃなくて黴がお似合いさ」
「大体お前さんは気味が悪いのだ」
「おれ達は桃人に用はない」
「とっとと桃に帰れ」
「この馬鹿が」
「糞桃」

 激痛と恐怖の中で、少年は子供達の顔を見た。皆、愉しそうだった。それらはまるで、お気に入りの玩具で遊んでいるかのような、純粋無垢な笑顔だった。
 津波のように押し寄せる恐怖と激痛の中、少年は気を失った。

 やがてそこを、洗濯を終えて家に戻る途中だった老女が通り掛かった。彼女は倒れている子供に構わず通り過ぎようとしたが、その服の柄が少年のものであることに気付いた。慌てた彼女は少年を抱き起こした。少年は漸く息を吹き返したが、血だらけの右眼は既に潰れていた。怒りの発作に見舞われた老女は、激しく少年を撲った。
「この馬鹿。何でやられたんだい。とんちき」
 少年は必死に何か言おうとしていたが、言葉が出てこないらしく、血で汚れた口を無様に動かすのが精一杯だった。その様が祖母の激昂を一層高めた。
「本当にお前は馬鹿だよ。眼がこんな醜い様になっちまったのなら、もうお前を何処の旦那にも売り飛ばせやしない。何のためにお前を今日まで育てて来たと思っているんだ」

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