『戻らない船』
和織
(『クサンチス』)
エリィは自分が美しいということをよく理解し、その美しさを、新体操の選手がリボンを操るようにうまく使いこなせる女だった。天使の容姿から繰り出される仕草は魔的で、一瞬でも彼女に惹かれれば、両目を釣り上げられたも同然だ。
『まったくなにやってんだ』
広瀬厚氏
(『浦島太郎』)
家賃の滞納から圭一は今暮らすアパートを出ていく事となった。彼はロックバンドでボーカルをしていたがメンバーと喧嘩をしてから何もせずにいた。酒を飲みにいった帰り彼は川に身を投げようとしている女を助けた。アパートを出なければならない彼は、この女の暮らすマンションへ転がり込む事となった。
『Cinderella shoes』
植木天洋
(『シンデレラ』)
女は新しくできたショッピングモールで靴を買おうとしていた。しかし気に入った靴は行方不明になり、あちこち探しまわる内に同じ場所をぐるぐると回っているような感覚に陥ってしまう。時間を気にして、気は焦るばかりだった。
『白い部屋』
柿沼雅美
(『赤い部屋』)
愛未に惹かれ、白い部屋に集ったファン7人。好きで好きでたまらない女の子の部屋にはじめて入ったような抑えがたい高揚感と、スーパーのマシュマロの袋の中でしか出会わないような淡い色合いへの興味に、僕たちはまばたきすら忘れそうだった。
『ある日』
辷
(『もりのくまさん』)
大学院生の私は、研究や他の課題などに忙殺され、彼女にも振られ、日常に行き詰まりを感じていた。そんな彼はある日、目の前に続く一本の道がどこまで続くのか確かめたいという気持ちにおそわれ、ただ無心に歩き出す。その道中で彼は不思議な女性に出会う。彼の旅を止めようとする女性に対し彼は…。
『カラスの真実』
長月竜胆
(『小ガラスと大ガラス』)
大ガラスは不吉の象徴として人々から恐れられていた。それに対して、普通のカラスはまるで風景の一部でしかないように全く相手にされない。自尊心の強いカラスはその不遇を嘆くが、大ガラスから助言を受けたことで、人間を見返すべく変わり始める。現代のカラスはこうして生まれた。