『ネコソーゾクの兄弟』
楠本龍一
(『長靴を履いた猫』)
三人兄弟の末っ子に父親から残された遺産は、猫のボードリヤール。昔から可愛がってきた、言葉をしゃべる猫だ。上京したボードリヤールはアパート生活にもすぐに慣れ、出かけるときは大体、ブーツを履き俺について歩いてきた。
『弁当』
沖原瑞恵
(『桜桃』太宰治)
親よりも子が大事、と思いたい。親からみれば子供はいつまでも子供であろうが、そうは言ってもこの世に生まれ落ちて十五年が経つのだ。それだけ生きれば親より大人になり、苦労を背負うこともあるだろう。
『コウモリ女』
田中りさこ
(『卑怯なコウモリ』)
ナナ、夏、まことの三人は、中学校の同級生。それぞれ別の高校に入学し、大学進学を気に自然と会わなくなった。十年ぶりの同窓会で再会すると、話に花が咲き、後日再び集まることになった。するとさらにその翌週…
『リネン』
三日月響
(『蒲団』田山花袋)
ホテルマンの私は、チェックアウト後無人の客室で掛布団を強く引いて、冷やかなリネンの中へと滑り込んだ。口元近くにくる掛け布団を包む上質のホテルリネンからは、あの日、父の初七日の夜に嗅いだ父親の洋服の臭いがした。
『死にたがりの人魚姫』
東村佳人
(『人魚姫』)
昔誰かが言った。私は姉さん達の駄目なところを集めたんだって。でも気にはならなかった。私は人間の言葉が読めるから。エレーン姉さんみたいに歌が上手くなくても、オーリ姉さんも知らない物語を知っているから。
『ピエロと蜘蛛の糸』
阿倍乃紬
(『蜘蛛の糸』芥川龍之介)
蜘蛛の糸が降りてきなさった!興奮する頭とは裏腹に、私たちはじっと動きを止めて頭上に揺れるそれを見つめた。誰もがあの糸によってこの世界から脱出することを夢見ている、クレーンゲームの「ぬいぐるみ」である、私たちは。
『琵琶のゆくえ』
森江蘭
(『耳なし芳一』)
「もし、これを、引取っていただけますか。」御道具預商 拾思堂を訪れた男は、逆光のため顔の造作はわからなかったが、僧形の人物のようだった。坊主頭なのはわかる。が、何かが欠けている。ああ、そうか、耳介がないのか。
『悪者たちの竜宮城』
ききようた
(『桃太郎』『こぶとり爺さん』『花咲じいさん』『浦島太郎』)
海の青さは照らされた太陽の光と澄んだ空気によってより一層映えている。欲張りで有名な爺さんと、両ほっぺに大きなこぶを持つ爺さんは、そんな海辺で焚火をしながら冬の寒さに耐えていた。すると、近くの藪から鬼が現れ…