『夢泥棒』
伊藤円
(『夢占』『舌切り雀』『浦島太郎』『かちかち山』『雷のさずけもの』『はなさかじいさん』等)
巷では『ドリドリ』が流行していた。飲用し眠れば好きな夢が見られるという代物で、橋爪も愛飲者の一人だった。ある日の夢の中、橋爪はドリドリの副作用と言われる『夢泥棒』に遭遇した。会社の同僚に相談して『アンチドリームシーカー』という海外製の夢泥棒予防薬を貰い、早速試してみたが……。
『汝自身を知れ』
柳氷食
(ギリシア神話『変身物語』)
太陽神アポロンに愛されるテイレシアスは、ある日アポロンに「神にあることで質問されるが、『女』と答えると盲いる代わりに予言者になる」と教えられる。予言の神でもありながらも自身の未来が分からずいつも嘆いているアポロンのために、テイレシアスは「女」と答えるのを選ぶが……。
『木漏れ日の中で息をした』
水無月霧乃
(民話『送り狼』)
与那原はどこにでもいるような大学生。ある日、昔に迷子になった日の夢を見た。後輩の葛葉がそれは「送り狼」だと話す。あの狼のことは、今日まですっかり忘れていたのだ。今になって、夢に見て思い出した。ああ、もう一度、会ってみたい。与那原は送り狼に会うため、森の中へと入るが……。
『ドアの声』
あおきゆか
(『塀についたドア』H・G・ウエルズ)
ある日、仕事を早退した主人公は間違って反対方向の電車に乗り、奇妙なビルにたどり着く。緑色のドアの向こうから聞こえた声に促されて入った部屋は、作家になるのが夢だった男の願望を具現化したような場所だった。しかし、湧きあがるアイデアを書きとめようと開いたノートは一文字の余白もなく……。
『檸檬爆弾』
荻野奈々
(『檸檬』梶井基次郎)
地下鉄のホーム。声を掛けられた少女はけだるげに振り返った。そこには、紺色の浴衣を着た無骨そうな男が。手にはスーパーのビニール袋。彼の周りだけ重力の働きが違うかのような、妙な迫力を漂わせていた。「檸檬です。置くと爆発するので、このビニール袋に入れて持ち運んでください。」
『アコガレ』
田中りさこ
(『うりこひめとあまのじゃく』)
「うりこひめが木に縛りつけられるあのシーン。子供心にすごくドキドキした」
わたしは、本当は『エロ』に興味があるのに、それを表に出せない真面目な自分に嫌気がさし、二十歳の誕生日の記念に、初めてクラブへと訪れた。そこで出会った一人の若い女。わたしと彼女は、交流を重ねていくが……。
『ツバメとおやゆび姫』
五十嵐涼
(『おやゆび姫』)
僕の唯一の楽しみは、学校の後洋介さんというお兄さんにギターを教わる事だった。ある日洋介さんの元に向かう途中、自転車に轢かれてしまう。倒れていた僕を助けてくれたのは、クラスの和泉だ。小柄で可愛い彼女は不遇な家庭環境に置かれていた。事故をキッカケに彼女と友達になるのだが……。
『おとぎサポート』
広都悠里
(『一寸法師』)
学校一背の低い男、堀川翼。進路希望調査票を前に悩む高校二年生。そんなオレの前にシルベミチユキという奇妙な男が現れる。昔から語り継がれているおとぎ話は「おとぎサポート」のおかげで成功したものだというのだ。そして今、時代の新たなおとぎ話のニューヒーローを求めているのだという。
『仇討ち太郎』
星谷菖蒲
(『桃太郎』)
「其の方、島町鍛冶屋の鬼塚家当主、鬼塚太郎に相違ないか」一人の男が、殺人の罪で詮議にかけられようとしていた。殺されたのは、桃太郎の子孫と伝わる一家。罪を否定しない男は、「なぜ殺したのか」と問われて答える。「桃太郎の話を知っているか」、と。そして、その夜のことを語り始めた……。