『鳥の噂話』
長月竜胆
(『聞き耳頭巾』)
鳥の言葉を理解できるようになる不思議な頭巾を手に入れたお爺さん。鳥たちの噂話を頼りに、長者の娘を救うことに成功する。ところが、一つ問題を解決すると、結果的にそれが別の問題を誘発し、事態はややこしくこじれていく。そんな様子もまた、鳥たちの噂話の種になるのだった。
『凍てつく血、青銅の心』
柳氷蝕
(ギリシャ神話『エンデュミオン』)
死神は少年に出逢った。その輝く美しさに、凍えた心が解けてゆきそうになる。
けれども、死神は彼に触れてはならない。触れた箇所から命を奪い取ってしまうから。生命の輝く美しさを、損なってしまうことになるから。心を溶かしてはならない。死は万人に平等で、何よりも冷たくなければならないから。
『百年まって』
眞中まり
(『夢十夜』)
百年待っていてください、星の破片を墓標に置いて、その傍で。きっと逢いにきますから。そうあの人に伝えて、わたしが命を終えてからどれほどの昼と夜が巡ったのか。ほの暗い場所でわたしはじっと待っている。あの人に逢いにゆける百年後を、遥か空にきらめく星の破片の光だけを信じて待っている。
『紡ぎ虫の糸はし』
石橋直子
(『蜘蛛の糸』)
巣にかかったとんぼの保身を図る姿に、蜘蛛は強い嫌悪感を覚えて牙を立てた。のちに天寿を全うした蜘蛛だが、絶対者によびさまされカンダタを信じて血の池へ下れと命ぜられる。地獄と慈悲と孤独と、一番おそろしいのはどれなのか。答えがわからぬまま、蜘蛛は男のエゴによって血の池に身を沈めていく。
『汐穂の王子さま』
晴香葉子
(『星の王子さま』)
大学3年生の汐穂は、どこにでもいる普通の女子大生。全くモテないわけではないが、彼氏ができないある理由を抱えていた。今回もまたうまくいかず、飲み過ぎた翌日、目覚めるとそこにいたのは、変わった服装をした青年だった。汐穂は、その青年と1週間を過ごすことになり……。
『多元宇宙収束現象太郎』
多憂唯果
(『桃太郎』『一寸法師』『浦島太郎』『金太郎』)
多元宇宙の収束により、各々の世界から集まった桃太郎・一寸法師・金太郎・浦島太郎。彼らは様々な宇宙を漂流し、混乱しながらも、自分たちが「物語の主人公」であることに漠然と気づき始める。そして互いを鬼であると認識した桃太郎と一寸法師は殺し合いをはじめて……。
『ジョバンニの弟』
和織
(『銀河鉄道の夜』)
めくらで、もらわれ子のカムパネルラは、お祭りの夜布団の中で泣いていた。すると何か聞こえてきて、気がつくと誰かと汽車の中にいる。その青年は、ここにあるものはめくらのカムパネルラにも見ることができると言う。そして、自分はカムパネルラの兄であるジョバンニの友人だと……。
『双子の山羊』
宮城忠司
(北欧神話『タングスニとタングスニョースト』)
亮三は小学三年の時に子山羊の世話係になった。成長した雌山羊は双子のオス山羊を産む。父に殺すよう命じられた亮三はしかし、子山羊を山に捨て、隠れて乳を飲ませた。10年後、交通事故で視力を失った亮三は、山で重なりあった動物の骨が見つかったという話を聞き、あの山羊に違いないと確信する。
『硝子細工』
酒井華蓮
(『堕落論』坂口安吾)
「ねえ何この部屋臭過ぎるから!窓開けるよ!」幼馴染の女子大生 美麗はその名の通り美しい。けれど彼氏と別れたこの夏休みはそれまでとうって変わって煙草と酒に囲まれ、洗濯やゴミ捨ても適当。それでも「私、堕落してない」と主張する。そんな彼女が好きなことは、綺麗なものが壊れることだ。