わかっている。彼女をそうさせているのはわたしではない。そうさせているのは、母や父が幸せを見つけられるようにと、わたしにこれでもかと言うくらい愛情を注いでくれたからなんだということを。愛されるように、深く深く。それを教えてくれる、今日の風だった。きっとこの世界では、誰かが何かを伝えたくて(たぶん母にあれこれ洗脳された彼女によって)、その気持ちが風になる日だってあるのだ。
「ねえねえ、わたしのは感じる?」
と彼女は、もうひとつ念押しのねえのかわりに、頭をちょこんとわたしの肩に当てて聞いた。
ならばと、わたしは即座に答えた。
「君が死ぬほど食べている時にね」
「ひどい」
と彼女は笑いながら言った。
橋を渡ると、海のにおいがした。と同時に、彼女のお腹が鳴った。組んだ腕の密着した服を通しても感じたその響きは、わたしの心にまで響いて胸がいっぱいになった。
彼女が何か言う前にわたしは言った。
「好きだよ、その音」
彼女は、うふふと笑った。