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『思いのままに』緋川小夏

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 三年前も、こうして向き合ってお酒を飲んだ。あの頃と違うところと言えば、わたしは少しだけ大人になって世間というものを知り、先生は白髪が増えて老眼も進んだ。最近は老眼鏡が手放せなくなっているらしい。
「美鶴ちゃんが好きになった人って、どんな人?」
「えっ?」
 今度は先生の方から、いきなり質問をぶつけられた。
「それは……えーっと、体を動かすのが好きな人」
「なんだそれ」
 そう言われても困ってしまう。
「通っているフィットネスクラブで、よく一緒になる人。最近なんとなく話すようになって、お互いに趣味も合うし年齢も近くて、なんとなく意気投合しちゃって……」
「若いんだ?」
「わたしより、ひとつ下」
 わたしが新たに好きになった小窪さんは、先生とは全く違っていた。
先生の趣味は園芸、小窪さんの趣味はアウトドアスポーツ。先生が常に受け身であるのに対して、小窪さんはとてもアグレッシブで行動的。何事も、ぐいぐい来るタイプだ。
初めて逢ったときからそうだった。何の気負いもなくわたしの内面に入り込んで、自分でも知らなかった自分を引き出してくれる。最初は少し驚いたけれど、やがてその感覚が心地よく感じられるようになって、気がついたら強く惹かれるようになっていた。
「そうか……」
 そこまで話して再び沈黙が訪れた。手持ち無沙汰になったわたしは、少しずつ何度もホッピーを口に運ぶ。先生のジョッキの中身は残りわずかになっていた。
「そうだ、これ」
 すると先生が隣の椅子に置いていた大きな紙袋を持ち上げて、わたしに差し出した。
「え、わたしに? 中を見てもいい?」
「どうぞ」
身を乗り出して手提げ袋の中をそっと覗き込んでみる。そこには小さい可憐な花をいくつもつけた、梅の木の盆栽が入っていた。
「え……これって、もしかして梅?」
「そう、梅の木。これ『思いの儘』って名前の梅なんだ。ひとつの枝に淡紅色、紅色、絞り、白と、さまざまな花を、まさに『思いのまま』に咲かせる珍しい品種なんだよ」
 わたしは紙袋から梅の木を鉢ごと取り出して、静かにテーブルの上に置いた。かすかに甘い香りが鼻孔をくすぐる。
「思いの儘……初めて聞いた。そんな名前の梅があるなんて知らなかった」
 あらためて花びらを観察してみると、確かに花弁の色はそれぞれ違っていた。一本の木から派生した花なのに、各自、勝手気ままに思い思いの花を咲かせている。
 初めて目にする不思議な梅の花に、わたしはすっかり見入ってしまった。
「あら、いい香りがすると思ったら梅の花? 綺麗ねぇ」
 そこへ、さっきの店員が足を止めて声を掛けてきた。
「ええ。思いの儘って名前の梅なんです」
「素敵な名前ね」

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