「かず、待って、熱いから!」
やはり熱かったようで、すぐ皿に置いた。ガーリックのいい香りが食欲を誘う。
『あー、腹減ったな』などと思う。
時計を見る。
『えっ!まだこんな時間!?』
早い時間から混むとびっくりするほど時間が経つのが遅い。
これりゃ、ホッピー黒2本目に突入だな。
長い夜はまだまだ続く。
毎日いろんなお客さんが来ては去り、ご近所さんのご用達になったり、単身赴任の方の憩いの場になったり、野球選手の穴場になったり、宴会の会場になったり、そんな日々が続いていた。
正直何度か自分自身、辞めたいと思うことはもあった。楽しいこともあるが、やはり大変なこともあった。
漠然と、『このまま続いていくんだよなー、ずっと』などと数年先を想像したりしていた。
しかし、ここまでの話は1年半前の話である。ずっとはなかった。終わりが来るなんて。
今、店はない。
主人が、3月という歓送迎会のある宴会シーズンに突如入院したのである。
私を含め、家族、お客さん、身近な人はみんなびっくりした。
びっくりしなかったのはうちの愛犬八郎くらいだ。
毎日一緒にいて、そんなになるまで気づかなかった私は何をしてたんだろう。
本人は日頃から忙しさを理由に、体調が悪くても極力病院に行かない人である。健康診断もことごとく言い訳をして回避してきた。
よっぽどのことだったのであろう。限界を感じて自ら病院に行ったときは、もうすでに体は最悪の状態であった。黄疸が出ていて、目も黄色い色をしていた。この日は朝、主人一人で病院に行き、今まで18年間休んだことはなかったが、初めて佐々さん一人にランチを任せて休んだ。
しかし夜の宴会の予約が入っているので、お客さんには迷惑をかけられないという一心で、通常なら立っているのも信じられないくらいらしいが、自ら運転して店に来て、刺身盛合わせを8皿造り、鍋8台の準備をし、佐々さんと私にその後の引継ぎをし、お母さんと病院へ向かい入院した。
検査結果で手術をすることになり、店を続けるかどうかというのが問題になった。半月程、店長不在で営業した日もあった。いつから再開かの問い合わせの電話があったり、日々いらしてくださっているお客様のことを考えると、あまりにも急なことなので、ご迷惑をかけてしまうという想いもあり、そして近況を報告するという意味でも、4月中はこじんまりと営業した。
通常のメニューではなく、限定のメニューで営業した。店長不在で不安はかなりあったが、常連さんを始め、ぽつぽつお客様が来てくださった。皆さん温かい言葉をかけてくださり、少しご迷惑をお掛けしたかもしれないが、何とか営業することもできた。お陰様で近況報告することができた。
店のシャッターに張り紙をしていたこともあったからか、いらしたお客様が「この前来たら張り紙してあってさー、びっくりしたよ。店長大丈夫なの?」とか「辞めないよね?」とか「親方いつ戻ってくるの?」など、心配してくださる方がたくさんいてありがたかった。佐藤さんには前もって店を休むことは電話で伝えていた。いつから再開かはわからないと伝えていたが、いつも店の前を通ってチェックしてくださっていたようだ。佐藤さんの奥さんには、「毎日ここ通って開いてるか見てたの~。今日は開いてるって思って来たの~」
「親方どう?」