3テーブルに外であるホッピー白黒1本ずつ、中を4つようやく持っていった。混んでいるときは、仕事を何個か抱えているので、順番に確実に進めていかないと、どれかが抜けてしまう。また、早く進めなければ更に次の仕事が入ってしまい、ヤバイ状態になってしまう。そういう時は、当然スタッフみんながいっぱいいっぱいのため、誰にも頼めない。
「お待たせしてすみませーん。外と中それぞれお持ちしました」
「大丈夫だよー。今日も忙しいね」
「忙しいところ申し訳ないんですけど、お寿司注文しても大丈夫かな?」
「あ、うーーん・・、お時間だいぶかかるかもしれないですけどよろしいですか?」
「うん、大丈夫大丈夫。ゆっくりでいいから」
「今日もいつもと同じ並でよろしいですか?」
「はい、お願いします」と注文係の小田さん。
「オーダー入りましたー」
端末でオーダーを送信し、厨房にいた主人がその流れてきた伝票をみてムッとしながら、
「時間かかるよ!」
「お待ちいただけるそうです」とすかさず私。
なぜムッとするかというと、居酒屋なのにきちんとシャリを切るするところから一からやるので手間がかかるのである。今現在のてんてこまいのときにはオーダーが入ってほしくないのである、正直・・・。
厨房は主人メインで、もう一人佐々さんの二人で回している。それぞれ分担が決まっているが、忙しくなるとそれ限りではなくなる。主人は寿司割烹で修業したこともあり魚の目利きもよく、居酒屋なのに刺身が非常においし
いと評判である。その時期に状態のよい魚をなるべく仕入れているので、うちの刺身を食べるて感動の声をよく聞く。ほやはご存じだろうか。何ともおもしろい容姿をしている。海のパイナップルと呼ばれるこのほやは、好き好きが分かれる海の生物である。旬は初夏から秋である。この時期になると主人は天然のほやを仕入れたりする。天然のほやはとてもおいしい。甘い。ほやが初めてというお客様が、「あ、食べれる~。おいしい~」と言ってくださった。初めて食べるほやが当店のものでよかったと私は思う。初めて食べるほやが鮮度の悪いものだったら、「私ダメ、食べれない」と嫌われていたかもしれない。実際当店にいらして食べれなかったものが食べれたというお客様が何人かいらっしゃる。ある人は肉全般ダメなんだけど、ここの牛のたたきは食べるんだよね、という女性の方もいらした。刺身もここのなら食べれる!と言われたこともある。
店長は、(店にいるときは主人のことは店長と呼んでいるので、文中でも店長と書かせていただきます)頑固というわけではない。混んでいるときは誰でもそうだと思うが、お客様に迷惑をかけないよう必死なのである。自分の旦那だからと言って欲目で褒めるわけではないが、100坪近くある店内を忙しいときでも全体の状況を把握して指示をする。これはすごいなと思う。
店長が刺身を切る板場はカウンターの真ん前なので、お客様と話をすることも多々ある。大体は1人で来る常連さん。時々混んでテーブル席が満席のときは2人でもカウンターにお通しする。その忙しいさなか、刺身を盛り付けながら常連さんと話をして笑わせている。真似できない。やろうとしても、笑顔がひきつる。忙しくてもお客様とのコミュニケーションは忘れないその姿勢、素晴らしい。刺身もカウンターなら直接店長が出したりする。店長が出すことによって産地はもちろん、今どれだけこの魚がうまい状態か詳しく説明するのでその刺身は更に美味しさを増す。