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『君と飲んだ、あの日々の思い出を胸に』矢野李佳

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「ちゃんと来れたな。入ってくりゃいいのに」
「無理だよ、だって店員さんみんな外人なんでしょ?」
「はは、気後れしちまうか。悪かったな、ついて来い」
十蔵は美和を連れて店内へ入り、狭い通路を歩いた。店長や古くからの常連客が『じいさん、ガールフレンドか?』と、声をかけてくる。十蔵は『俺も捨てたもんじゃないだろ』と返しながら、店のバックヤードへ向かった。住居のある二階へ続く階段を上ると、美和が後ろから不安げな声を出した。
「ねえ、お店で食事をするんじゃないの?」
「いや、家の方に用意したよ。久しぶりに包丁を握りたくなったんだ。最後の夜が和食というのも変な話だが、思う存分食ってくれ」
 そう言いながらドアを開けると、美和がわあっ!と声を上げた。
 ドアのすぐ右手にはキッチン、その先はリビングとなっていた。部屋の中央に置かれたダイニングテーブルには、十蔵の作った典型的な居酒屋料理が、所狭しと並んでいる。
 つきあたりの壁にある大きめの窓からは、向かいのアパートしか見えなかった。しかしそこはウィーンなので建物に趣があり、息苦しさはない。屋根と屋根の隙間からは、星空と雲が顔をのぞかせていた。
「やだ、ご飯すごく美味しそう!揚げ出し豆腐なんて何ヶ月振りだろ。それにこの部屋もかわいいね」
 十蔵は面はゆいい気持ちになりながら栓抜きを渡した。美和は「代わりに開けてよ」とごねたが、十蔵が頑なに拒んだため、あきらめて自ら栓を抜いた。よく冷えていたのか、白いガスが瓶の口から立ち上がる。ちらりと美和を見れば、複雑な顔をしていたので、十蔵はわざと明るい声を出した。
「さて、中をどうしようか。残念ながらうちには焼酎がないんでね」
「中って?」
「ああ、割る酒のことだよ。俺たちはホッピーを外、酒を中と呼んでいたんだ」
「なんかカッコイイ言い方だね。大人ってカンジ。彼はよくジンで割っていたわ」
「へえ、時代は変わったんだな、俺たちなんて焼酎一択だったのに」
「私はコーヒーで割っていたよ。でも今日は外だけでいいわ」
「割らんのか」
「うん。本当はね、ホッピーだけで飲むのが一番好きなの」
「めずらしいな」
「よかったら十蔵さんも試してみて」
 そう言って美和は、二つのグラスにホッピーを継いだ。淡い黄金色の液体が柔らかい泡とともに姿を表す。美和はそれを一息で飲み干した。
「おいしい!」
 美和がうれしそうに笑った。けれど十蔵が全く手をつけていないことに気づいて、首を傾けた。
「飲まないの?」
 十蔵はその言葉に、頭を下げた。
「すまん、俺は後で飲むよ」
「やっぱり、何かで割る?」
「違う、そうじゃない」
「じゃあ、どうして?」
 十蔵はぐっと拳を握りしめた。

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