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『桜の花が咲く頃に』潮楼奈和

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 なんとなく、責任を取るような、やっといて放置というような適当さが自分の中で是とできなかっただけで、結局、そのうち合わなければ別れるだろうというだけの、むしろよりタチが悪い発言。それを彼女に見透かされたようで、ドキリとした。
「寝たら飽きるくせに」
 彼女から笑顔で繰り出された発言はもっと辛辣だった。
「飽きないよ」
 ……たった今、冷めかけた自分が、息をするように嘘を吐く。

 気持ち悪かった。
 彼女といると、自分がどうしようもなく、くだらない保身に走る人間に思えた。
 おかしい。
 俺はずっと普通に生きてきただけだ。
 普通の何が悪い?
 誰だって自分の身がかわいい。
 誰だって失敗は嫌だ。
 だってそうだろう?
 失敗した人間はどうなる?
 挑戦の3倍のエネルギーを使って、這い上がるか、そのエネルギーが捻出出来ない人間は這い上がれもせずに、終わっていく。
 それが怖くて何が悪い。

 堂々と自分の人生を選び取る彼女の光は、小さな嘘を自分の中に重ねて生きてきたものを、如実に明るく照らし、焦げ付くほど不快な熱風で、自分の醜さを強烈に焼き付けるようだった。

「俺も、枕のひとり?」

 思わず、口からこぼれた言葉は、鋭利な刃物のように彼女の喉元を切り裂いた。
 彼女が凍りつくのがわかる。だが、止まらなかった。
「誰とでも寝ているから、特定の相手は作らない?」
「ねえ、ちょっと何言ってるの?」
「俺と寝たら、客引っ張れると思った?」
 心にもない事。そう言えない自分が絶望的に汚く思えた。
 なぜだろう。世の中、みんな同じじゃないのか?
 どうして俺ばかり汚くなっていくのだろう。

「だからだよ」
 彼女は無表情でぽつりと言った。
「あなた、私のこと、好きじゃないのに、どうして付き合おうって思ったの?」
 決めつけられた言葉も、否定ができなかった。
 彼女が部屋を出て行く音を聞いても、俺は身動きが取れず、そのまま立ち尽くしていた。

* * *

 いつのまにか染み付いた習慣は恐ろしい。
 あれから、いつもの日常を過ごし、あんなことがあったと言うのに、あいも変わらず、あの居酒屋に足が向いてしまう自分に驚いた。

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