メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『桜の花が咲く頃に』潮楼奈和

  • 応募規定
  • 応募要項

 困惑した彼女をスルーして、俺はカウンターに同じものを注文した。おそらく、俺は彼女のことがもっと知りたかっただけだったのだ。彼女がどんな酒を楽しんでいるのか、同じように楽しんでみたかった。しかし残念ながら、1時間後には、俺はカウンターを食らうことになる。

 そこまでは覚えている。正確にはぼんやりとはその後も覚えている。酔った勢いでやってしまうとか、どこのドラマだと思う一方、彼女が案外、簡単に寝たことに拍子抜けした。
 酔った俺に付き合って、家まで送ってくれた彼女は、俺をベッドに引きずるように運ぶと、「重い!」と若干の恨み節を込めていた。足元もふらついて、記憶も曖昧だが、意識があった俺は、「ごめん」と言った気がする。
「今度おごってもらう」
 そう彼女は言った。
「いいよ。いつ?」
「今言っても忘れるでしょ」
 即答した俺に、彼女は呆れて笑った。彼女のこの笑顔は好きだ。キャバクラでの愛想笑いを思い出して、俺はそんなことを思った。
「何で飲むかなあ」
 部屋を出た彼女はそのまま帰るのかと思ったが、隣のキッチンで冷蔵庫が開く音がした。
「ほら、お水」
「……めんぼくない」
「武士か」
 彼女がまた笑う。
 ペットボトルを渡された手首を俺は掴んだ。振りほどけるなら振りほどける程度の、でも確かに捕まえていると伝わる強さで。
 彼女はふりほどかなかった。
 そのまま顔を引き寄せる。
 重なった唇が離れると、彼女は「同じ味」といたずらっぽく笑った。

 その日、どんなに酔っても戻さなかった俺はその点だけは高く評価する。
 それ以外は最悪といっていい。どうしてあんな大胆に誘ったのか、しかも酒の勢いを借りて。
 彼女と飲むのは楽しかったが、同時に羨ましいという嫉妬があるのもわかっている。単純に好みだから寝たいという軽さでもなければ、確実に恋と言える重さもなかった。
 落とし所のない自分の感情が、彼女の寝顔と相まって責め立ててくるようだ。
 そしてあまり良く知らない自分と寝た彼女に対して、どこか、冷めてしまった気持ちがあるのは認めざるを得なかった。少し近づいたと思った。でも結局は彼女の枕のひとつにしか過ぎないのかもしれない。
 そして彼女が目覚める。
 俺はぐるぐると回る考えとは別に「付き合う?」と口にしていた。

* * *

 彼女の反応は見事だった。面白がって笑いながら、「やだ」とひと言突きつけた。
 半分ほっとしながらも、断られると複雑な気持ちになる自分にいい加減、嫌気が差してくる。

6/9
前のページ / 次のページ

第6期優秀作品一覧
HOME

■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 ホッピービバレッジ株式会社
■企画・運営 株式会社パシフィックボイス
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。


1 2 3 4 5 6 7 8 9
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー