困惑した彼女をスルーして、俺はカウンターに同じものを注文した。おそらく、俺は彼女のことがもっと知りたかっただけだったのだ。彼女がどんな酒を楽しんでいるのか、同じように楽しんでみたかった。しかし残念ながら、1時間後には、俺はカウンターを食らうことになる。
そこまでは覚えている。正確にはぼんやりとはその後も覚えている。酔った勢いでやってしまうとか、どこのドラマだと思う一方、彼女が案外、簡単に寝たことに拍子抜けした。
酔った俺に付き合って、家まで送ってくれた彼女は、俺をベッドに引きずるように運ぶと、「重い!」と若干の恨み節を込めていた。足元もふらついて、記憶も曖昧だが、意識があった俺は、「ごめん」と言った気がする。
「今度おごってもらう」
そう彼女は言った。
「いいよ。いつ?」
「今言っても忘れるでしょ」
即答した俺に、彼女は呆れて笑った。彼女のこの笑顔は好きだ。キャバクラでの愛想笑いを思い出して、俺はそんなことを思った。
「何で飲むかなあ」
部屋を出た彼女はそのまま帰るのかと思ったが、隣のキッチンで冷蔵庫が開く音がした。
「ほら、お水」
「……めんぼくない」
「武士か」
彼女がまた笑う。
ペットボトルを渡された手首を俺は掴んだ。振りほどけるなら振りほどける程度の、でも確かに捕まえていると伝わる強さで。
彼女はふりほどかなかった。
そのまま顔を引き寄せる。
重なった唇が離れると、彼女は「同じ味」といたずらっぽく笑った。
その日、どんなに酔っても戻さなかった俺はその点だけは高く評価する。
それ以外は最悪といっていい。どうしてあんな大胆に誘ったのか、しかも酒の勢いを借りて。
彼女と飲むのは楽しかったが、同時に羨ましいという嫉妬があるのもわかっている。単純に好みだから寝たいという軽さでもなければ、確実に恋と言える重さもなかった。
落とし所のない自分の感情が、彼女の寝顔と相まって責め立ててくるようだ。
そしてあまり良く知らない自分と寝た彼女に対して、どこか、冷めてしまった気持ちがあるのは認めざるを得なかった。少し近づいたと思った。でも結局は彼女の枕のひとつにしか過ぎないのかもしれない。
そして彼女が目覚める。
俺はぐるぐると回る考えとは別に「付き合う?」と口にしていた。
* * *
彼女の反応は見事だった。面白がって笑いながら、「やだ」とひと言突きつけた。
半分ほっとしながらも、断られると複雑な気持ちになる自分にいい加減、嫌気が差してくる。