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ブックショート2014年度大賞作品『HANA』のショートフィルム化プロジェクトが始動しました。ブックショートのサイトでは、ショートフィルム完成に至るまでの軌跡を随時お届けします。 初回は、大賞受賞者である原作者の結城紫雄さんと、ショートフィルムの監督に決定した岡元雄作さんの対談です。実は、二人には面識があったということでしたが、原作者と監督という立場では初顔合わせとなりました。

岡元雄作

1980年新潟県生まれ、東京都在住。株式会社アストロサンドウィッチ・ピクチャーズ 代表取締役。ディレクター(映画監督)&プロデューサー。映画・CM・MV・CS番組等をディレクション。ショートショートフィルムフェスティバル&アジア等の映画祭で数々の受賞も。

結城紫雄

1987年福岡県生まれ、東京都在住。福大附属大濠高→法政大を経て校正事務所勤務。2016年春放送のオムニバスドラマ『キスのカタチ 11VARIATIONS OF LOVE』(テレビ神奈川ほか)一部脚本担当。右投両打。


ブックショート2014年度大賞作品

『HANA』(『鼻』芥川龍之介)/ 結城紫雄


あらすじ
: 女子高生のハナは、顔もまずまず、そこそこモテて、成績も中の上。だけど、とっても胸が小さい。そんな彼女の誕生日に友人たちがプレゼントしたのは「おっぱいを大きくする薬」。翌朝目覚めた彼女の胸は……

-原作者×監督 初顔合わせ

結城:映画は全くの素人なので、この打ち合わせに備えて、シナリオの書き方についての本を読んで勉強してきました。僕が書くわけではないんですけどね(笑)。小説では心の声を文章で書けますが、映画では何気ない動きや表情などで表現しなければいけないと思うので、小説『HANA』がどんな風に生まれ変わるのかとても期待しています。

岡元:『HANA』には、面白い心の声やつっこみがたくさんありますよね。僕は、原作のある映画を撮るのが今回初めてなので、どうやったら小説に書いてあるものを、あざとくならないように映像で表現できるんだろうと悩みながら楽しんでいます。

結城:登場人物がどういう表情や動きをしているのかは、僕自身にもわからないところですから、映像化で観せていただけるのは本当に嬉しいです。

岡元:プレッシャーです(笑)。


-『HANA』のテーマについて

岡元:文体が面白いな、というのが『HANA』を読んだ最初の感想でした。小説を読んでいるというよりも、女子高生たちのリアルな会話を聞いているような感覚で1ページ目から引き込まれましたね。芥川龍之介の『鼻』と違って、最後の場面で胸が大きくなるというのもひねりが効いていて良かったです。

結城:ありがとうございます。

岡元:僕はこの作品について、「第三者的なエゴイズム」が一番のテーマだと受け止めました。女子高生の会話の流れで物語がずっと進んでいって、突然ズドンと突き落とされる感じがすごく印象的でしたね。映画ではその部分を主題として表現するのがいいのかなと思っています。結城さんが『HANA』を書いたときに考えていたテーマはどんなことですか。

結城:コンプレックスや自意識というものですね。もちろんその裏表として、岡元さんが今おっしゃった「第三者的なエゴイズム」があります。第三者がいなければ自意識は芽生えませんから。

岡元:その両面を描くつもりですが、テーマを明確にしておかなければ、結局何を言いたい映画なのかがわからなくなってしまうのが怖いですよね。もちろん、ストーリーを楽しんでもらうことは大前提ですけど、そのうえで、観客にひっかかりを残さなければいけないと思っています。それがテーマで、最終的に言いたかったことは、「第三者のエゴイズム」だとわかるような映画に僕はしたいですね。他人に対して同情する一方で、見下したり笑い者にして優越感を持つという二つの矛盾した感情を映像でどう表現するのか。ずっと悩んでいます。

結城:『HANA』は、自分で書いた作品なんですけど、こうやって話をすると新しいことに気づかされて、どんどん深いものになっていきますね。


-舞台の設定・キャスト・キャラクター

岡元:物語の舞台となる高校は、共学とも女子高とも読めると思いますが、結城さんはどちらを想定していましたか。

結城:女子高を念頭に書いていましたが、おっしゃるようにどちらにも読めるんですよね。異性の目がある方がコンプレックスやエゴイズムは強くなっていくのか、同性だけだからこそそれを意識しやすいのか。どちらも本当にあると思います。だから、岡元さんの解釈でどちらでも大丈夫です。

岡元:そう言っていただけるとこちらもやりやすいですね(笑)。

結城:キャストについて一つ質問があるのですが、主人公 ハナ役の女優には、胸が小さい人か大きい人、どちらをイメージしていますか。

岡元:小さい方ですね(笑)。大きい胸を小さく見せることもできますが、小さい人からは、演出によってその役者本人の実際の悩みや経験を引き出せるのではないかと考えています。結城さんは書いている時、具体的なキャストをイメージしていましたか。

結城:無いですね。実は、以前にショートショート実行委員会の方に、「僕、筧美和子さんが好きなんですよね。」と話したら、本当に6月の授賞式にプレゼンターとして呼んでいただいてしまったので、軽々しい発言はできないんです(笑)。キャストも細かいキャラクター設定も岡元さんにお任せします。

岡元:どこまで原作に忠実に撮るかについては、キャラクターが一番重要だと思っていたので、それを聞いて安心しました。まだ色々と考えている途中ですが、主人公 ハナの苦悩や葛藤を描くのであれば、癖のあるキャラクター設定にした方がいいと考えています。ハナ以外は、一人一つ個性が出るようにしたいですね。


-原作者として望むこと

結城:今、『HANA』を読み返してみると、胸についてもっと上手く表現できればよかったなと思います。胸が大きくて「肩が凝る」という意見はよく聞きますが、ある女友達が、「胸の下に汗疹ができる」と教えてくれたんです。それはもう全然思いつかなかったですね。

岡元:それは思いつかないでしょうね。

結城:逆に、ハナの胸が小さいことが露見したきっかけとして、小説では「スポーツブラ」を使いました。映像では、そういった胸の大小がハナ自身や周囲に認識される境目をうまく表現していただけたら嬉しいです。

岡元:プレッシャーです(笑)。最終的にハナの胸が大きくなって良かったかどうかはわからないですけど、僕は、ハナがすごく晴れやかになるという終わり方にしたいです。だから、そこに辿り着くまでの心境の変化を上手く描けたらいいなと思っています。

結城:小説『HANA』は僕が書いた作品ですけど、映画は岡元監督から生まれる新しい作品なので、監督の思い通りに作っていただければと思います。楽しみにしています。

岡元:ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

(2015.11.5)

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