ARUHIアワード2022では、①『新しい生活』②『わたしの「家族」』という2つのテーマで、2022年7月1日〜10月31日までの四ヶ月間にわたって短編小説を募集し、日本全国から602作品の応募がありました。そして、そのなかからARUHIアワード2022大賞作品ほか、3点のARUHI賞受賞作が決定いたしました。
【大賞】(賞金30万円)
『淵上家の義理族』
河村みはる
(②わたしの「家族」)
2019年に続いて2回目の開催となった「ARUHIアワード」には、前回を上回る602作品の応募が集まりました。①『新しい生活』②『わたしの「家族」』という2つのテーマに対して、独自の切り口と多様な解釈で創作していただいた作品が多く、非常に読み応えがありました。そのなかで大賞に輝いたのが「淵上家の義理族」(河村みはる 著)です。
受賞作は、夫に先立たれた3人の女性が一つ屋根の下に暮らす、というお話ですが、彼女たちに「血のつながり」はありません。主人公の翔子、翔子の亡くなった夫の母親、(翔子の夫と同じ事故で亡くなった)翔子の義弟の妻である柚乃――つまり、姑と嫁2人という組み合わせです。三人を「家族」としてつないでいたはずの二人の男がすでにこの世にいない以上、三人をつなぐものはなくなってしまったように思えるかもしれません。まして、嫁と姑というのはとても難しい間柄。同居生活は一筋縄でいくはずがありません。実際、三人の間では、<ご機嫌とっちゃって、嫌だわ><またそんなつまらない恰好をして、(中略)、冴えない姿ねえ>といった穏やかでない会話が飛び交います。<そうだった。家には怖い魔女が、じゃなく、怖い義母が待っているのだった。早く捧げものを渡さねば何をされるか。くわばら>。
けれども、彼女たち三人は同じ家で暮らし続けます。それはどうしてか。もちろん、亡くなった男たちが残した遺言にそう書かれていたことは大きな理由でしょう。彼らの思い出が詰まった家で暮らしていたいという思いもあったかもしれません。しかし、それ以上に、この作品を読むと感じられることがあります。この三人はもともと、二人の男がきっかけで「家族」になりました。けれども、一つ屋根の下で暮らすことによってその関係に変化が訪れます。そう、誰かを介した「義理」の関係から、彼女たち自身が直接深くつながっていったのです。一文一文からそうしたイメージが浮かんでくるところがこの小説の最大の魅力です。
いつの日か彼女たちのうちの誰かがこの家を出ることがあるかもしれません。それでもきっと三人の関係はいつまでも変わらないでしょう。そうあってほしいと願わずにはいられません。そんな新しい「家族」のかたちを描いた「淵上家の義理族」(河村みはる 著)が今回の大賞作品です。
【ARUHI賞】(賞金10万円)
『ふやけてもいいですか?』
小松波瑠
(①新しい生活)
東京から福島にある亡き祖母の暮らした家に引っ越した女性のお話。若くして責任ある立場に就いた彼女には、部下の退職や職場での人間関係の難しさなどさまざまな困難がつきまとっていましたが、移住先での幸せな出会いによって、肩に乗っていたいろいろな重荷を少しずつ下ろせるように変化していきます。そして、その「新しい生活」は彼女に、一歩前に進む勇気まで与えてくれたのです。とても優しい気持ちになれる一作です。
『共鳴家族』
秦大地
(②わたしの「家族」)
お風呂に入った女子高生とその家族のコミュニケーションを描いたお話。女子高生が友人との気まずいやりとりを回想するなか、家族との会話はほんの少しですが、読み進めるごとにそのとても素敵な関係性が浮かび上がってきます。<いつもつながっている。ちょうどいいかんじに繋がっている>。みんながそれぞれの悩みを共有しながら寄り添いあっていける家族って素晴らしいなと思わされました。弟や母親が主人公の物語も読んでみたいです。
『退屈なコピペの日常』
木戸流樹
(①新しい生活)
「コピペ」のような同じ毎日に退屈していた主人公が体験した不思議な出来事。走り去ってしまった「高校生の自分」を追いかけて幼馴染のユキコとともに母校を訪ねたカズヤは懐かしい景色を目の当たりにします。<(高校生って)俺らにとって毎日同じことの繰り返しだなーって思いながらも退屈じゃなかった最後のときだったんじゃない?>。それでも、いくつになっても自分次第で繰り返しの毎日を楽しむことができるようになるのだと教えてくれる作品でした。