受賞作品:
『名前って、ふたつ以上の鐘の音』入江巽(『ラムネ氏のこと』坂口安吾『赤と黒』スタンダール)
受賞理由:
第4回を迎えたブックショートアワードでは、入江巽さんの『名前って、ふたつ以上の鐘の音』が頂点に輝きました。
『名前って、ふたつ以上の鐘の音』の主人公田中コンドーム・ジュリアンは、自身の名前によって生きづらさを感じています。原因はどうであれ、<自分にはどうしようもない事情のせいで、他人には言えないコンプレックスや劣等感を抱えながら生きていかざるを得ない>状況は、古今東西、多くの人間が直面する苦悩であると言えるでしょう。そんな主人公が、<同じ悩みを持ちながらも明るく強く生きる友人、そして女性と出会い、交流することで、世の中にたいして心を開いていく> というストーリーは、大きな共感を呼び起こします。元ネタとなった坂口安吾の『ラムネ氏のこと』、そしてスタンダールの『赤と黒』のエッセンスをうまく取り入れながら、人間の普遍的な感情を鋭く描いた本作は、今回の受賞作としてもっともふさわしい作品でした。
なお、受賞者の入江巽さんは、第1回ブックショートアワード以来、毎年すべての応募作品が最終候補に選出されており、このたび4回目で初めての栄冠を手にしました。