自分はいったい、あの当時、どんな手紙を書いていたのだろうか。読み返してみたいような気持も有ったが、ここはすっきりと、いらないと言った方が良いに決まっている。
「いいわね。楽しいご家族で。何だかうらやましいわ」
カウンターの奥にいた女が、一口サイズに切ったフルーツを盛り合わせた大きな皿を持って来た。
「わー、美味しそう。いただきまーす」
友紀の顔が輝いた。
「ところで、パパとママの出会いをつないだネクタイとネックレスはどうしたの」
「そんな古いネクタイは、もう捨てちゃったよ」
「えっ? 私はネックレス持っているよ」
研二は、咲子がまだネックレスを持っていることに驚いた。実は自分も、こっそりとネクタイは仕舞っていたのだ。ただ、何となく照れくさくて、無いと言ってしまったのだ。
「いやー、実は俺もネクタイ持っているんだ」
研二が照れた顔で告白した。
「パパとママをつないだネクタイとネックレスは一番の宝物だね。だってそこには私もつながっている訳でしょ」
そうだ。この家族でいることが、今の俺の最高の幸せなのだと研二は思っていた。
咲子も友紀も、楽しそうに、フルーツにフォークを伸ばしている。