「やっほー。美幸ちゃん、元気? お母さん、すごく喜んでるよ。しっかり働いて、親孝行しているんだもん。えらいよなあー」
相変わらずのハイテンションだ。地元のみんなに愛される人気美容師とあって、いつまでも若々しい。
「磯部さんも元気そうで何よりです」
「ほがらかなお客さんに囲まれて、幸せさ」
美幸は液晶画面越しにこぎれいな店内を見回して、頬を緩めた。
「懐かしいな。またお会いしたいですね」
「いつでも遊びにおいで。そうそう、美幸ちゃんの七五三の写真がどこかにあったっけ。うっすら紅を引いて、はにかんだ笑顔がべらぼうにかわいかったんだよな。探しとくからさ、今度いっしょに見ようよ」
「はーい、楽しみにしてまーす。どうぞ、母をよろしくお願いしますね」
「オッケー、またねー」
「美咲、バイバーイ」
母と磯部さんに向かって大きく手をふって、電話を切った。
(さあ、会社に戻って、もうひと仕事片づけるか)
潔く立ちあがって、タイトスカートの裾をピシッと伸ばした。ハイヒールをカツカツ鳴らして、銀杏の並木道を通り抜けていく。
(次は年末かな。帰省したら、ちょっと浮気して、久々に磯部さんに髪を切ってもらおう。それまでもう少し伸ばしてみるか)
鮮やかな黄色い葉っぱが、踊るようにくるくる宙返りをくり返す。すずしい秋風が吹き抜けて、前髪をやさしく撫でた。