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『うわさの美容室』吉岡幸一

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 静香さんはどこかどっしりとしていました。体重も増えたのではないでしょうか。なによりも驚いたのが、髪が伸びてロングヘアに戻っていたことでした。この美容室に来なかった間ずっと伸ばし続けていたに違いありません。
「新しい彼が長い髪が好きなんです。だからあまり切らないで揃える程度にしてほしいんですけど」
 おっとりとした口調でしたが意見を言わせないような言い方でした。
「ええ、わかりました。そうしますね」
 以前ショートにしたことなど触れもしないで答えると、静香さんは満足そうに頷きました。そして静香さんの方からこれまでのことを話してくれました。
 離婚した後、しばらくして新しい恋人ができ、すぐに再婚をしたということでした。離婚した当初は看護師の仕事に戻るつもりだったそうですが、再婚をしたため戻らず再び専業主婦になったのだそうです。
 私は心の隅でがっかりとしていました。髪を短く切った静香さんはシングルマザーとしてたくましく子供を育てていくと思っていたからです。たくましく生きていく静香さんにはショートカットが似合うはずと思っていました。もちろん勝手な想像に過ぎません。
 髪の毛を整えた私を見て静香さんはとても嬉しそうに笑いかけてきました。そのとき私は自分が間違っていることに気がついたのです。人の幸せはそれぞれなのだと。幸せの価値観を勝手に押しつけるべきではないのだと。静香さんの満ち足りて幸せそうな顔こそが答えのすべてなのでしょう。
「本当に噂のとおりですね。この店で髪を切ると恋が成就するというのは。だって、私はこのとおり幸せになれたのですもの」
 帰りがけに静香さんは言いました。甘えてぐずる子供を両腕に抱き抱え、ふっくらと張り出してきたお腹を片手でなでる様子はとても幸せそうでした。
 噂があるのかなくなったのか、私は気にすることもなくなりました。ただ確かなことは、髪を切る私には浮いた恋の話もなければ恋が成就するような出来事もないということです。
それでも美容師としてお客さんの髪を切ることがなによりも幸せでした。ある意味、私は美容師という職業との恋を成就したと言えるのではないでしょうか。だとすると、噂は本当だったと言えるのかもしれません。私の恋も成就したのですから。

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