「それそこ、『どのくらい儲かりますか? ユーチューバーより稼げますか?』とかっていう質問も来るかもしれないし」それを聞いて北浦は思わずぷっと吹き出して「確かに。今の子供たちはそういうの気になるみたいですからね」と大きくうなずいた。藤野も笑いながら話を続けた。
「美容師の仕事って髪を整えるだけじゃないって僕は考えているんです。お客様が美容室に足を踏み入れる瞬間って、だいたいみんな髪に対して悩みとか不満を抱えています。伸びすぎてまとまらない、とかイメチェンしたいとか。白髪が目立つからヘアカラーしたいとか。それを解決しに来るわけじゃないですか。みんなが抱えている悩みがほんのちょっとでも軽くなるように、お手伝いをしている、美容師はそういう仕事なんだって。うまく伝えられるかどうか、ちょっと自信はないんですけど」そう言って藤野は少し照れたように笑った。
「この企画、やっぱり藤野さんにお願いできてよかったです」北浦はそう言って、きゅっと胸の前で拳を作ってみせた。
「よし。じゃあ早速、ファイルを見せてもらいましょうか」藤野はそう言って腕まくりの仕草をした。
北浦が手渡した分厚いファイルの中には、4年1組の生徒たちの質問や悩みがたっぷりと詰まっているに違いない。子供たちに対して、ごまかさないで答えられるように。少なくともおじいさんにひどいことを言ったと傷ついている少女や、あの日女の子を泣かせてしまった僕自身に対して。そう心に決めながら、藤野はファイルを一枚また一枚と、めくりはじめた。