メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『この髪形にしてください』中島直俊

  • 応募要項
  • 応募規定

 なぜか褒められた。

「自分を変えたいって、思っても行動を起こせる人間は少ないよ。僕なんか、こんな歳になっても、いつも思ってる。でも思ってるだけ。恥ずかしい話なんだけどね。僕の奥さん、僕に嫌気がさして、こないだ出てっちゃった」
「中学生に何話してんですか……」
「理由は、いろいろあるんだけど。最大の理由は、僕がハッキリ、奥さんの事愛してるって言わなかったから。これでも本当に愛してるんだけどね。中々うまく言えなくて。君みたいに勇気を出して、自分を変えたいんだけど。この煮え切らない性格はなかなか変えられない。それに比べて、君はすごいよ。本当に尊敬する」
「そんな……」

 大人の男の人にこんなにストレートに褒められたのは、晴人にとって初めての経験だった。なんだか恥ずかしい。でも嬉しい。

「僕はね。美容師は、お客さんの人生を応援する仕事だと思ってるんだ」
「人生を、応援?」
「髪形をキレイにするって言うのは、心を楽しくする。心が楽しいと人生は楽しいだろ? そのお手伝いをする仕事。そこで、改めて質問なんだけど、君は本当にモヒカンにしたい?」
「……」

 晴人は考える。似合わないと断言されたモヒカン。正直に言えば、自分でもそう思う。それでも自信をつけるためと自分に言い聞かせてきたけれど、本当に自分は、モヒカンにしたいのだろうか?

 考えた結果、晴人は首を横にふった。

「うん。じゃあさ。君に本当に似合う髪形を僕に考えさせてくれないかな。僕に君を応援させて欲しいんだ」

 そう言って、店長は晴人に笑いかけた。
 晴人は、今度は首を縦に振った。

                    ※

「はい、出来上がり」

 一時間後、鏡の前にいたのは、晴人が今まで見たことのない自分だった。今までモッサリとしていた風貌が、今はどこか洗練して見える。

「うわぁ」
「気に入った?」
「はい!」

 モヒカンではなくても、この髪型なら、自信をもってステージに上がれる。晴人は初めてそう確信できた。

 清算を終え、店長と二人の店員が、出口まで晴人を見送ってくれる。

「文化祭、頑張ってね! 応援してる」
「ブチかましてやれよ!」
「またのご利用お待ちしております。頑張って」

 三人の大人たちは、口々に応援してくれた。それが晴人にとって大きな励みになる。

「はい。頑張ります!」

 晴人は頭を下げて帰ろうとして、ふと足を止めた。

「あの、店長」
「ん? 何?」
「さっきの話。奥さんが出て行ったって……」
「アハハ……。ホント中学生にする話じゃなかったね」
「店長は、変わらなくてもいいと思います」
「え?」
「店長は、僕みたいな子供にも一生懸命になってくれるから、奥さんも、本当はわかってると思います」
「……」
「あ、ゴメンなさい」

 晴人は、慌てて頭を下げる。

「……うん。ありがとう」

 晴人が帰った後。大島はスマートフォンとにらめっこをしていた。画面には、妻の連絡先が表示されている。表示はしたものの、通話ボタンを押す決意はなかなかできなかった。

「えい」
「へ?」

 横合いから七海の手が伸びてきて、通話ボタンが押されてしまった。

「あ! ああっ! な、なにすんの?!」
「観念してください」
「で、でも……」
「中学生に背中押されて何もできないとか情けなさすぎですよ」
「う……」

 本当のこのコは、痛い所をついてくる。

「私は、あの子の言う通りだとおもいますよ。店長は、煮え切らなくて情けないけど、それって、優しいの裏返しですから。奥さんだってホントはわかってます」

 それだけ言って、七海は去っていった。
 ため息を一つつき、観念して受話器を耳に当てる。
 しばらくして、電話の相手が出る。
 さて、何を話そうか?
 あの中学生のように、前に進む勇気を、今こそ奮い立たさなければ。
 大島は覚悟を決めた。

「あの、もしもし……」

4/4
前のページ

第3期優秀作品一覧
HOME

 

             

               

■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 株式会社ミルボン
■企画・運営 株式会社パシフィックボイス
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。

1 2 3 4
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー