さっちゃんがピカピカにしてくれた窓からは、ちらちらと舞う雪が見えた。今年が終わる。私はまた、あなたと新しい年を迎えるのだ。この先も、ずっと。きっと。
四月三日 曇りのち晴れ
「やよちゃん、それ終わったらちょっと話があるから。二階来てね。」
お店を閉めて、買取った本の値付けを黙々としていると、さっちゃんに声をかけられた。確かにもう夜の八時だ。自宅とお店が一緒だと、仕事の切りをつけることを忘れてしまう。
残りの値付けは明日にして、私も二階へ上がった。さっちゃんがかしこまって座っていた。あ、これはお店のことについて話すときの雰囲気だ。私も同じくかしこまって、さっちゃんの対面に座った。
「今日もお疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。」
「えっと、話なんだけどね。やよちゃんが、雑貨とかCDとかレコードも置きたいとか、新刊の本も取り扱い始めようとか言ってくれてたでしょ?」
「うん、言った言った。ほら、年末に屋根裏部屋で見つけたおじいちゃんの民芸品を店内に飾ってたら、若い女の子が売り物ですか?って聞いてくれて。それで、雑貨を売るのもいいかもって思って。CDとかレコードは、ホリカワ君とかうちのお父さんが詳しいから。古本屋っていう概念に縛られずに、売りたいもの、売ろうかなって。私たちらしい古本屋にしてけばいいなって思って。新刊本も、売りたいって思う本なら、置いてもいいかなって。」
「うんうん。僕も、そういうものも取り扱うこと、悪くないと思う。古本屋さんって、自分が欲しいものを求めて行くっていうのもあるけど、その場での出会いってのも大きいと思うからさ。古本との出会いだけじゃなくって、自分が知らなかったものとの出会いにも繋がるお店を作れたらいいなって思ってる。だから…」
こんな感じで、さっちゃんとお店作りの話をするのは楽しい。もちろんシビアな話も出てくるけれど、未来について語るのは、やはりわくわくする。
「っだから…、お店の『これから』がだんだん決まって来たから、さ。ぼ、僕たちの『これから』もしっかり決めたいんだけど…。」
「…はい…?」
話の風向きが、変わった。
「えーと、だから…。うーんと…。あ、明日、四月四日、婚姻届出しませんか?改めて、僕たち夫婦になりましょう。」
そう言いながら、私の記入部分以外が丁寧に埋められた婚姻届をテーブルの上に広げた。さっちゃんの書く丸文字は、いつ見ても可愛らしいなぁ。いやいや、そんなことじゃなくて。
「…えっ、なんで今…?なんで、四月四日…?嬉しいけど、びっくりした…。」
さっちゃんから初めてプロポーズを受けた時、まだお店のことでいっぱいいっぱいだった。だから、入籍は先にしよう、お店の経営が安定したら本当の夫婦になろう、と二人で決めていた。