ちょっと前までは、美咲のささやかなご褒美の小鉢にさえも共感できなかったのに――。
自分はまたあの虚無感に捕らわれるかもしれない。でも誰しも先のことなど分からないのだと、最近は夕日を受ける街並みに、人々の息づく強さを感じるようになった。
都会の夕焼けが田舎より赤いのは、都会の塵の多さと光の乱反射の関係にある……と聞いたことがあるが、ビルを染める都会の夕焼けが、行き交う人々の姿を、ドラマみたいに仕立て上げてしまうから――。梅ちゃんのお姉さんも、取り戻せない時間を糧に、都会の地に足をつけて頑張っているのだと思うし、健介にとって救世主だった梅ちゃんも、今は故郷の空の下、新たな時間の中で生活している。
「鳥羽の夕日は山と海のどっちに沈むのかな?」
ふっと健介の口から突いて出た疑問に、美咲はさほど驚いた風でもなく、
「どっちなんでしょうねぇ」と首を傾げた。