小説

『狼少女』あだちまる子(『嘘をつく子供』)

 メイは、友達らしき数人の女の子と楽しそうに話していた。元気そうなメイの姿に、私はうれしくなった。そして何より、この運命的な再会に心が震えた。こんな偶然があるのかと。だけど、「久しぶり!」と、笑顔で駆け寄りたい気持ちと裏腹に足がすくんだ。

 もしかしたら、メイには私が自分を食う狼に見えたのかもしれない。気付いていたけど、不登校だった過去を隠したくて、話しかけてこなかったのかも。あの日、白黒を抱き寄せ、赤く腫れたまぶたを隠していたショートヘアは肩の下まで伸びていて、ひざ下のスカートを履くメイからは、規範から外れた私が不快な存在に見えたかな。そもそも、あの放課後のことなんて、もう。

 臆病な私は「メイのことなんて忘れた違う世界の女の子」と自分に嘘をつき、避けるように、交わらないようにした。そして、半年もたたないうちに、私は高校生活を終わらせた。

 
 中退してから、私は仕事を転々とした。どれもしっくり来なくて、どれも続かなかった。そして、覚えたてのお酒を飲んだ日。帰りに寄ったコンビニで偶然、コバヤシに
会った。
「あ~コバヤシだ~。覚えてる? 私さあ、コバヤシのこと好きだったんだよねえ」
 私は朝方のコンビニに似合わぬ大きな声で話しかけ、フラフラと近寄った。だけど、コバヤシは「ああ……」とうつむくだけ。いたたまれなくなった私はコバヤシの目を見られないまま、何も買わずにそそくさとコンビニを出た。

 家に着くと、玄関でチビが私を待っていた。さっきのことを思い出し、布団で眠るクロをそっと抱き締めた。ああ、私はメイに話しかけることができないまま高校を辞めるにとどまらず、今日はコバヤシに酔っぱらいの醜態を思いっきりさらしてしまった。

 私って何でこんなにばかで気持ち悪いんだろう。チビとクロはここにいるのに、臆病なせいであの放課後すら嘘になってしまいそう。あの放課後は、私だけのものじゃないのに。私はまた、あの放課後のことを忘れることにした。

 
 成人してしばらくしても、私はまだしっくりこない日を送っていた。同年代の子たちはそれなりの企業に勤め、結婚して子どもを育てている者もいる。苛まれているわけではないけど、成人式以降、その子たちに会うこともなかった。

 ある日、車の教習所に通い始めた弟が、プリントを持って私の部屋に入ってきた。
「今日、お姉ちゃんの同級生だったっていう教官に、『エアガンと猫を見に、よく遊びに行ってたよ』って言われたんだけど。ほら、これ」
 見ると、「コバヤシ」というハンコが押されていた。
「俺、全然覚えてなくて適当に合わせちゃった」
「……どんな人だった?」
「え、どんな人? うーん、優しかった」

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