小説

『狼少女』あだちまる子(『嘘をつく子供』)

 メイの気が向かなかったある日の放課後、いつものように家に寄ると、メイは駐車場にある、前の家主が置いていったであろう壊れた犬小屋をのぞき込んでいた。見ると、汚れたタオルや、くだいたクッキー、牛乳が注がれたおままごと用の器に囲まれた、まだ目が開ききっていない白黒と三毛の子猫がいた。

 その次の日もメイは駐車場にいて、「まだいるよ」と犬小屋をのぞき込んでいた。そのまた次の日、私はメイと「そっちは白黒で、こっちは三毛ね」の言葉を交わし、三毛をそっと手提げ袋に入れて帰った。もぞもぞと動く手提げ袋の中を母に見せると、あきれながらも「あんたがセキニンを持って面倒を見なさいね」と、タオルや段ボール箱を用意してくれた。

 
 その夜、電話を取った母の「メイちゃんがいなくなったんですか?」という声に、家族の視線が集まった。寝転がって三毛の名前を考えていた私も飛び上がり、受話器に耳を寄せる。晩酌をしていた父は、テレビの音量を小さくした。

 どうやら、猫は飼えないと言われて家を飛び出たらしい。私の頭に、白黒と手をつないで知らない街をさまようメイの姿が浮かぶ。電車に揺られてどこかへ向かう姿や、森の中で白黒と焚き火をしている姿まで。本当になったらどうしよう……と母の横で立ちすくんでいると、父がテレビを消し、「行くよ」と私に上着を渡した。

 無言の父に手を握られながらしばらく探していると、暗い田んぼの脇道で、しゃがみ込むメイを見つけた。メイは私たちに気付いた様子だったけど、タオルに包んだ白黒を抱えたまま、その場から動かない。ショートカットの上に隠れた顔をのぞき込むと、目に涙を溜めていた。

「帰ったほうがいいよ」
 どう話しかけたら良いのか、迷った挙げ句に発した言葉に自分でもしっくり来なかった。もちろんメイにも響かず、私はすっかり黙り込んでしまった。
「じゃあ、二匹はうちで飼うことにしよう。メイちゃんは飼い主として、うちに遊びにきた時にお世話をしてね。……それでいい?」
 メイは父の提案に納得したのか、ひとしきり白黒を抱き寄せたあと、グッとこらえた表情で私に白黒を受け渡した。私はこの時、白黒が「セキニン」に見えた。

 
 私とメイは、三毛の「チビ」と白黒の「クロ」に夢中だった。メイとの遊び場は駐車場より私の部屋が多くなり、アニメのキャラクターの肩にチビがちょこんと座った絵や、ゲームの主人公の相棒としてゾンビと戦うクロの絵をよく描いた。

 その頃、私はクラスメイトのコバヤシが気になっていた。コバヤシは、授業を抜けて校庭をうろついたり、先生にも平気でひどいことを言ったりする子。そしていつも国語辞典を持ち歩き、ニヤニヤしながら下品な言葉をクラスメイトに見せ、「最低!」「ウザッ」と言われていた。

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