小説

『マルドゥック・アヴェンジェンス』上田裕介
(inspired by 小説『マルドゥック・スクランブル』)

 マックの問いにキューブリックが呆れ声で答える。
「貴方、さっき自分で言っていませんでしたか? 『殺人課に連絡はきてなかった』と。ないんですよ。死体も、血痕も、それを掃除した痕跡もね」
「血痕ひとつなしだって? だとしたら、ロビンはどこへ行ったんだ?」
 殺人課の仮説へのアプローチ
「血痕も死体もなかったんです。逃げたのでは?」
「何故? こんだけの火力をぶちまけたんだ。射手の殺意は明確。なのに何故警察に保護を求めてない?」
「彼は薬の売人です。警察に保護されたくない理由ならあるでしょう」
「あいつは情報屋としてマークされている。しょっぴかれたところで情報屋としての仕事を果たせば無罪放免だ。下手に逃げるよりも確実に安全だということはわかっていたはずだ」
「だとしたら部屋にロビンはいなかった?」
「だとしたら射手が撃つ必要性はないな」
「だとしたらロビンは拉致された?」
「答えは同じだぜ。銃を撃つ必要がない」
「仰るとおりで。で、貴方は何を言いたいのですか?」
 今度はキューブリックが両手を挙げ、降参の意思を示す。
「さあな。俺にも思いつかねぇよ。俺はただ疑問に思っただけだ。ロビンはどこに? ってな」
「それに関しては現状、この現場からだけでは分かりかねますね」
「だったら、今分かることを教えてくれよ、ええと、ミスターキュービー?」
「僕の名前はキューブリック。キューブリック・クィーンです。変な愛称で勝手に呼ばないでください」
「キューブリックなんて長ったらしくて呼びづらいんだよ。だったら“QQ”とでも呼ぼうか? スパイ映画みたいに?」
 からかうようにおどけるマックに、キューブリックは沈黙によって冷然と応える。
「はいはい。申し訳ありませんねミスター・キューブリック。んじゃ、今わかっていることの確認だ。現場はここだ。被害者は不明だが、現場がこの部屋だってことを考えるとおそらくはロビンだろう。 そして凶器はエド・フランクリンが所持する銃と。弾丸の口径は?」
「45口径ですね。全て」
「45ってことはオートマチック? 拳銃一丁でこんだけぶちまけたってのか?」
 頷くキューブリック。

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