小説

『マルドゥック・アヴェンジェンス』上田裕介
(inspired by 小説『マルドゥック・スクランブル』)

 ピタリと足下で停止したポッドを見てマックが感嘆の声を漏らす。
「最近の鑑識は随分とまぁ便利なおもちゃを持ってるもんだな」
 キューブリックはディスプレイに表示された情報を見ながら答える。
「いえ、このチックアプレイサーは支給されたものじゃありません。僕の自作の独立操作端末です」
「自作ぅ? 科学者ってのは機械まで作るのかい?」
「科学者が趣味で機械を作ることが問題でも?」
 あからさまな不快を示しキューブリックは反論する。
「きちんと許可を取り、実際に成果をあげています。このチッカーを現場に投入することで、現場で得た証拠をラボに運び、手続きを踏んで証拠を調査する時間を短縮させることができます。また自立で行動させることも……」
 警官に銃を突きつけられた現行犯よろしく、両手をあげ、降参の意を示して、マックはキュービーの言葉を遮る。
「オーケイオーケイ。悪かったよ。あんたも、そのチッカーとやらもすげぇや。そいつとあんたでちょちょいと事件を解決できちまうのはよくわかったから、今回の事件のことを教えてくれ。これをやったのはロビンじゃないって?」
 不満な顔のままキューブリックは頷く。
「……ええ。摘出した弾丸の線条痕から全てひとつの銃から発射されたものです。登録されている銃の持ち主は、エド・フランクリン。製薬会社の営業部長の一人です」
「製薬会社の営業部長が?」
 思わぬところで名前を聞いた、とでもいうように聞き返すマック。
 その反応にキューブリックは違和感を覚える。
 製薬会社の営業部長という肩書に反応した?
 違和感から得たヒントを元に推測した疑問をキューブリックは口に出す。
「あなたが追っている人物ですか?」
「いや、そうわけじゃないが……」
 言葉を濁す。
 製薬会社の営業部長と違法薬物の運び人、そこには互いに薬物を扱うという共通点はある。
 しかし、そのどちらも殺人課の刑事の獲物とは縁があるとも思えなかった。
「ところで、まだ肝心なことを話してないぜ?」
 分かりやすい話題の方向転換。
 食い下がることなく話題の変更に乗るキューブリック。
「他になにが?」
「犯罪と決めつけるのに必要な要素は3つ。現場、犯人、そして被害者だ。死体はどこにあった?」

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