小説

『Ignite』木村浪漫
(inspired by小説『マルドゥック・ヴェロシティ』)

 「ジェシカと連絡が取れなくなったのはいつだ?」
 ジェシカ・フェーレンは“ムーンライト”の娼婦だった。“ムーンライト”はヤクザがよく使う。不動産、金融、薬、そんな取引で懐の暖かくなった男たちが女を抱く。冷えた心と体を温めるために。
 「先週の金曜日だ。デカイ取引があったみたい、それっきりだ。D・ブレスの取引がある時だけ、連絡をつけるようにしていた。もうすぐ地図が出来上がるはずだったんだけどな。竜の吐息ドラゴン・ブレスの行き着く先が」
 ──D・ブレス。元々はダークタウンの裏路地を曲がれば誰にでも手に入れることができる非合法覚醒剤クラック。貧民たちに甘い夢をみせる安い救済の手段。しかしこいつをオクトーバー社が開発した新薬と混ぜると悪魔的な化学反応を起こすことが判明──製薬会社とベタベタのマルドゥク市議会/新たなシティ・ロウの誕生/麻薬撲滅キャンペーン/覚醒剤クラックはあなたの人生を破壊クラッシュします/新薬は回収されることなく、今だ流通し続けている/社会の一端であり公僕たる俺たち=犬のように鼻を鳴らして裏路地を駆け回る毎日。
 「元々、D・ブレスがカフェインと混ぜると効果が上がるってのは、ダークタウンじゃ常識だったんだ。クラックとコーヒーで目を覚まして、煙草をふかしながらボロボロになるまで働いて、夜はスコッチを浴びるように飲んで泥のように眠る。そしてまた、クラックとコーヒーで目を覚ますんだ」
 「そのD・ブレスがジェシカを殺したんだ。ドラッグでハイにされて、わけがわからなくなったまま冷たくなって死んだんだ」
 「今はそれ以上想像するなよ、ランド。捜査から外されたくなければな。まずはジェシカが会った客を洗い出す。それから、書きかけの地図を完成させる。死んだジェシカに誓って、必ずドラゴンの巣穴を燻りだすぞ」

 
 痩せぎすのスーツ姿の白人男性/*7*-***-****/ヴィクトル・ボーマン/証券会社のビジネスマン──若いブロンドの白人男性/***-***-*3**/ロイド・ディズレーリ/ブラウネル・ファミリーの若手──茶髪のアラブ系男性/アーネスト・アラタ/***-***-***4/大手企業のプログラマー──。
 “ムーンライト”のオーナーから押収した監視カメラの映像──ジェシカが相手をした男の数々/客がジェシカを指名する度にそいつの素性を確認/電話番号から──“ムーンライト”のシステム/店側から指名した女の子の番号を渡される──そのままホテルにしけこむ/デート気分を楽しむ/ジェシカの仕事用の携帯電話に残された数字の羅列。
 違和感マックスの客──年端もいかない少女/アッシュグレイの髪/フロント係にふわりとお辞儀=場違いな品の良さ/慌てるフロント係/構わず少女はジェシカを指名/怖いもの知らず=何かに守られている雰囲気。

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