小説

『五連闘争』三日月理音
(inspired by小説『マルドゥック・スクランブル』)

「おや、近いところに飛んだね」
 剣戟と銃撃は続いている。撃つたびに断ち、断たれたたびに撃った。
 バロットとウフコックのパートナーシップは物語最高点の強さでニコを追い詰める。柔軟に、絡みつくように。だが、ニコもまた加筆に加筆を重ね、自身の強度を増した。ニコは一度手首を撃たれ、撃たれた手が描写される間にバロットの頭を削いだ。バロットはすぐさま描写されたが、ページの一部が剥離して崩れ落ち、そのページは絶命した。
「あんたの人生は悪いもんだったってシーンだ。胸に迫るよ。可哀想に。だけど、これから復活劇が始まる。なんたってフェニックスだ。――だけど、どう? 読者に捨てられた今の気持ちは。自分を覗かれる気持ちはレイプと同じなんじゃないかい? あんたそう言ってたよね?」
 ニコは軽口を叩き続ける。それが自分の本分であるように。対してバロットはなにも言わない。それが本編で課された自分のルールだというように。辛い思いをした女の子が立ち上がるには言葉は適切な位置で挿入されなければならないというような、頑なな態度だった。
 ウフコックとの意思疎通は言葉を介さなくても完璧だ。
 カフェテリアの椅子を蹴飛ばしニコが、バロットに迫る。バロットが立て続けに銃撃した。銃撃の音さえ、効果音として描写される。ガウン、ガウンと猛るオオカミのように。
 カフェテリアの店内はページをまたいで描写されている。八十一ページだけでは内部を描ききれず、ググが付け足しまくって拡張した。本来、バロットが座っている椅子は今、空になっている。このページのバロットはすべての記憶を持つバロットが現れたことで消滅した。
 戦闘は続く。ほぼ完全なカフェテリア店内はすでに破壊の限りを尽くされていた。声の出ないバロットにためらいを覚えた青年ウェイターは銃撃と剣戟でずたずたになって、文字に還っている。
《化石の発掘は好き?》
「さあ? そういうキャラクター設定はされていない。考えたこともない。あたしの今の仕事、、は《裁断者》だからね」
 ガウンと一発。ニコの胸のど真ん中に当たる。文字の血が流れ出て、膝を屈すると同時に消滅。新たに描写されたニコが剣を振るった。それを銃身で受け止める。刀身に加重加筆を加え、ウフコックがみしりと軋んだ。
《じゃあ考えて。今、ここで。私の言ってる意味、分かる?》
 回し蹴りを放ったニコを、バロットは軽快なバク転で躱した。距離を取る。息を切らしたニコとバロットの描写をググが入れる。

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