小説

『五連闘争』三日月理音
(inspired by小説『マルドゥック・スクランブル』)

 西暦二二一五年。多くの著作物がデジタルへ移行した国立国会図書館で、所蔵されていた最期の紙媒体一般書籍が廃棄された。徹底して温度・湿度管理され、最新技術により延命を続けた書籍は、かなしいかな、ほとんどがタイトルさえ判然としないほど、虫食いとシミの劣化に襲われ無残な有様だった。デジタルコンテンツと化した書籍をわざわざ紙媒体で読む好き者も絶滅した。
 しかし、それをリサイクルして新たな読み物にする輩もいる。
 会員四百万人の《裁断場さいだんじょう》コンテンツは廃棄図書をデータ化、物語から抽出したキャラクターをネットワーク上で闘わせ、読み物として配信している。読み切りもあれば連載もある。ただし、それを書くのは人ではない。《キャラクター》だ。
 国立国会図書館の廃棄図書のうち、《裁断場》主催者に拾われ、百戦錬磨の《素描者そびょうしゃ》によって《キャラクター》が顕現した五連の物語があった。
 名を『マルドゥック』シリーズという。
 本作品は『マルドゥック』の主要キャラクターと《裁断者さいだんしゃ》および《素描者》が繰り広げ、読者、、に配信され続けた闘争の物語である。

 
描写コンテンツ:『マルドゥック・スクランブル』[改訂新版]初版
著者:冲方丁
年代:2010年
出版社:早川書房
描写キャラクター:ルーン=バロット及びウフコック=ペンティーノ
前述以外のキャラクター描写を《裁断場》の規約により禁ず
描写シーン:第一部 圧縮 第二章 混合気 p.67 
      バロットがカースタンドに車を借りに行く

 
「あれだ。目の前にあるスタンドで車を借りられる」
 交差点の斜向かいにカースタンドがあった。バロットは緑になっているほうの歩道を渡り、


 
闘い物語の描写を開始する。――ニコ、準備を》
《あいよ。しっかり描写しておくれよ》

 
 渡り、きれなかった。

 

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