小説

『舌を切る』本間海鳴(『舌切り雀』)

まだ売れていないぬいぐるみを全部かき集めて、ベッドに置いて、それに埋もれるようにして私は体を横にした。今となっては、会って数秒の男を夢中で手に入れようとしていた私が馬鹿らしくなっていた。私は、彼のどこに惹かれたんだろう。いや、彼に惹かれたんじゃない。多分私は、美玲に惹かれたんだ。美玲の持っている物を、私も持ちたかった。
ぎゅう、と手近にあった熊のぬいぐるみを抱きしめた。私はずっと、私じゃない何かになりたいまま、ここまで来てしまった。その結果、全部無くしてしまったのだ。
もう治ったはずの舌が、じんじん痛んだ。この痛みだけが、私を私たらしめていた。

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