小説

『天の羽衣』五香水貴(『天の羽衣』)

 翌日の放課後、昇降口で自分を待っていた天音から返却されたワイシャツは、いかにも女子っぽいショップバックの中に入れられていた。袋を開くと、ほのかに甘い香りがする。
 「私、まだこっちに仲良い子全然いなくて、もしかしたら私のこと嫌いな女子に嫌がらせされてるのかもとか思って、周りの子に声掛けることもできなくて、先生のとこに行くのも恥ずかしくて、どうしたら良いのかわかんなくて困ってたの。本当にありがとう」と、俯きながら言う天音に、「俺が仲良い子になれば良いじゃん」と返すと、天音は笑った。

 クラスでは三軍だった自分と、顔は良いのに高二の夏に転向してきたという理由で浮いていた天音の密かな交際は、高校の卒業までつつがなく続いた。秋は遊園地で遊んで、冬にはイルミネーションを見に行き、翌春にまた同じクラスであったことを共に喜び、夏には海に行き、次の秋には親に内緒で温泉に一泊し、冬には互いの受験を励まし合いながら図書館で一緒に勉強をした。あの夏の日、自分が盗んだ天音のワイシャツは、自宅のクローゼットの奥底に隠し続けた。

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