小説

『27の香水』Rin(『とおりゃんせ』(福岡))

「こんな昼間に会社に行ってないのを見るに、今日は休み?」
「うん、こうちゃんは?」
「あー、俺も休み?かな?」
「まさかサボり?笑」
「ちげーよ笑」
あんな別れ方をしたとは思えないほど穏やかな時間が流れる。
「ねえ、時間あるならご飯でも食べない?今までの話も聞きたいし」
「いいね!私麻婆豆腐がいい」
「辛いの食べれるようになったの?笑」
私は彼を小突きながら十字路に背を向け歩き出した。

空白の10年を取り戻すのにそう時間はかからなかった。
立場や環境は変われど、私たちはあの頃とは何も変わっていなかった。
すっかり意気投合した私たちはその後も頻繁に会うようになった。
そのうち休日の前夜は私の家でご飯を食べ、眠り次の日は2人で出かけるようになった。
「珈琲、置いとくね〜」
「ん〜、ありがとう」
彼は自分のことを多くは語らなかった。
体は重ねない。キスもしない
ただ、こうして時間を共にできることが幸せだった。

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