小説

『なのに、俺は』ウダ・タマキ(『幸福』)

「ギビングハピネス社。未経験者歓迎、学歴不問、月収百万円も夢じゃない! ってか」
 いよいよ首が回らなくなったある日、博人はネットの求人に借金返済の活路を見出した。笑顔と誠実さがあれば問題ないと微笑む年下の面接官に誠実さなど微塵も感じなかったが、博人に選択の余地は無かった。
 仕事の内容は単純だ。高齢者の家に眠る高価な貴金属を引き取ること。
 見た目の印象を良くするため、なけなしの金でスーツを買い、髪を短く整えた。
 しかし、現実はそう甘くはない。インターフォン越しに断られるばかりで、成果が無いまま入社して一か月が経とうとしている。成果をあげたい気持ちとは裏腹に「うちには貴金属なんて無いのよ。悪いねぇ」なんて申し訳なさそうにされると博人の胸は痛んだ。
「オシが弱いんだよ、オシが」
 上司はそういうけれど-
 誠実どころか詐欺だ。
 貴金属は鑑定するという理由で持ち帰り、謝礼として一万円の商品券を渡す。後日改めて連絡すると告げるが、その後は音信不通。後で何か言われても買取契約ではなく「交換した」というやり口。
「これ、犯罪じゃないんすか?」
「いいか、よく考えてみろ。年寄りが貯め込んでる金を世間に回してみな。どれだけ経済が潤う? つまり、俺たちは経済活性化の一端を担い社会貢献してるんだよ」
 博人の疑問に対して目を星のように輝かせた上司は、一日で数百万の利益をあげた実績があるらしい。
「はぁ、そうですか」
 博人の頭の中に疑問符が浮遊する。ギビングハピネスの社名が泣くぞ。とはいえ、周りから見れば博人も同じ穴の狢だろうけれど。

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