小説

『大先生』太田純平(『千早振る(落語)』)

「さて、これはどういう意味だろう?」
 先生が誰にともなく言うと、野球部の連中が鈴木に「イケ、イケ」と合図を送った。その期待に応え鈴木が挙手する。
「先生っ!」
「ム?」
「『かみのまにまに』とは何ですか!」
「キミはどう思う?」
「まったく分かりませんっ!」
 教室がまた笑いに包まれる。答えよりも笑いが取りたい。鈴木は満足そうに周囲の反応を楽しんだ。
「ウン。これも人の名前だ」
「えぇ? 人の名前?」
「あぁ。『まにまにさん』といってね」
 先生が言うと教室は大爆笑。「ヤバイ」「ウケる」とお決まりの若者言葉があちこちを飛び交う。
「さて、この和歌の意味が分かる人?」
 と先生が有志を募ったが、ざわついた教室は収拾がつかず。結局、先生が「この和歌はね、こういう意味だ」とまたもや正解を発表した。
「このたびは、大変申し訳ございません。せっかく、たむけ山に行ったのですが、もみじも、にしきも、手に入れることが出来ませんでした。神のまにまに様、申し訳ございません――まっ、こんな意味だな」
 先生の答えに対し、生徒たちの反応は様々であった。笑う者やノートに書き記す者。「塾で習った答えと違う」と囁き合う者。しかし最も過剰に反応したのは、やはり新藤であった。

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