小説

『手鞠歌』洗い熊Q(『キジも鳴かずば』(長野県長野県))

 あれは呪いなのだろうか、それとも一種の予知なんだろうか?
 予知ならば不安があれど恐怖は薄い。自分にやられたら絶望しかないだろう。
 もし正体が呪いならば。
 しかしあの子がそれほど恨むとは思えない。亡くなった人達が関わり合いがあるとも考えづらい。出逢った状況が本当に唐突なんだ。
 本当に突然に唄い始めている様な。
 少しでも考察をまとめようと考えていたが、憶測でしかない言葉を並べても論文になんて出来やしない。
 やはり母親だ。
 あの子の母親に聞くのが正しい。全てが勘違いで終わって途方にくれても、また考察通りだったとしてもだ。
 こんな靄の様な不安が払拭できるなら、それだけでいいのかも知れない。

 そんな機会は直ぐに訪れた。
 自分の大学側でだ。帰り際に女の子がいるのが見えた。
 近くに住んでいるのか? 何時ものお人形の見たいな服で鞠を突いている。
 でもあの鞠唄は歌っていない。
「こんにちは。また逢ったね」
 自分で言うのも何だが普通に怪しい声掛けだ。でも女の子は別段に警戒はしていない。一度会っているからか。
「一緒じゃないかな、お母さん。君のお母さんを呼んでくれない?」
 きょとんとした顔で首樫げた女の子。だが不審がる様子が一切ない。理解してくれそうだ、そう思った時だ。
 急に自分達の背後から女性の声が上がった。
「きゃー、やだ、可愛いじゃない」
 聞き覚えある声だと振り見れば、きらっきらした目で近寄って来たのは同級生の亜佐美だった。

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