小説

『夢見るような恋をして』裏木戸夕暮(『おめでたき人』)

 僕は彼女を見ているだけで幸せ。そう、見ているだけで。

 彼女との出会いは中学生の頃。歌動画を配信していた彼女に、僕はひと目で恋をした。生まれた時から地味キャラです、って人生を送っていた僕に突然訪れた初恋。スマホを見ているだけの、僕の恋。

 僕は彼女の私生活を想像する。どんな学校に通ってるんだろう。朝食は何を食べるのかな。放課後は友達と寄り道して、スイーツでも食べるのかな。そして太っちゃったかなって心配しながら、お風呂の前に体重計に乗るのかな。
 僕の見ているだけの恋は高校になってからも続いた。彼女の視聴者が増えるのが嬉しいような悲しいような。僕の心配は当たった。事務所からスカウトされて彼女はデビュー。彼女はスマホを飛び出して、みんなの彼女になってしまった。

 伸びやかに成長した彼女の体がグラビアを飾った時は何てことしてくれたんだ!とまるで父親のように怒ったけれど、勿論違う目で見る僕もいる。男だもの、仕方ない。付き合ったらこのバディに触れられるのかなぁなんて妄想してしまう。昔の動画と比べて胸が大きくなったなぁなんて思ってしまう。
 僕は彼女のSNSにメッセージを送る。こんなの事務所の人間がやってんだろなと思いながら。
 握手会に行く。僕の時だけコンマ数秒握手が長い気がして有頂天になる。ライブに行く。目が合った気がして有頂天になる。その幸せな勘違いの為に、一体幾ら使っただろう。親から貰った昼食代を節約しながらグッズを買った。早く社会人になりたい。稼いで彼女に貢ぎたい。

 リアルな彼女を作ろうなんて思わない、だって僕には彼女が居るから。その辺のつまらない女の子の機嫌を取ってやっと手を握る位なら、思う存分彼女との妄想に浸りたい。妄想デートなら何百回もしている。色んなパターンをシミュレート済みだ。日曜日、電車に乗ったら偶然彼女が居て、とか。痴漢に遭っている彼女を僕が助けて付き合うことになって、とか。あるいは握手会の後でそっと手を開いたら、連絡先を書いたメモが入ってたとか。何かのきっかけで彼女のSNSが炎上して、落ち込む彼女を慰めるコメント入れたらメッセージが届くとか。妄想デートの中の彼女との会話、夏は水着に浴衣にキャミソール。冬はお揃いの手袋、バレンタインデーには忙しいスケジュールの合間を縫って彼女が手作りしたチョコレート。妄想最高。
 彼女が恋愛ドラマに出るとする。キスシーンがあったとする。その後彼女が僕に言うんだ。
「あれね、相手があなたと思って演技したの・・・」
「そうなんだ。頑張ったね」
「あのね。演技じゃないの、したいな・・・」
とかさ!何度でも言う妄想最高。きっと毎日芸能人にばっかり囲まれてると、僕みたいな地味な一般人が新鮮だったりするんだよ。

 実は彼女との出会いを求めて、普段立ち寄る先を突き止めようとしたことはある。目撃情報や勝手に撮られた画像を検索して、家はどの辺かなとか。うまくいかなかった。でも突き止めたとしてもなぁ。素顔の彼女が嫌な子だったらどうすんだ。やだキモいとか言われたら泣いちゃうよ。夢は夢のままがいいのかな。

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