小説

『キャンプ場のマッチ売り』三坂輝(『マッチ売りの少女』)

 持たされたマッチ箱が憎い。
 ユカはマッチを擦った。
 マッチが二本減るのも、三本減るのも同じだ。
 火が灯り、またあたりを小さく照らす。
 腕をピンと伸ばす。できるだけ遠くの人にも見られるように。
 ユカの目にまた異物が飛び込む。

 ところが、すぐにマッチの火は消えた。風だ。
 あれは……。
 もう一度。しゅっ。しゅぼっ。
 また火が消える。
 何よ、もう!
 しゅっ。しゅぼっ。
 歩み寄ると、それもまたキャンプ客のゴミらしかった。
 いや、単に忘れ物かもしれない。
 それは花火だった。
 ドラゴン花火がいくつも詰まったビニールバッグ。
 いくつ入っているんだろう。確かめたい。
 そう思った瞬間、また火が消える。
 迷わず、次のマッチを擦る。もうユカは、マッチを擦ることをためらわない。
 花火が一つ、二つ、三つ……。まるっと忘れたのだろうか。あえて捨てていったのか。しけっているかもしれない。
 花火なんて、小学生以来、もう何年もやっていない。
 ユカはたまらなくなった。
 火をつけたい。マッチの火なんかじゃなくて、もっと大きな火をつけたい。火花を吹かせて、キャンプ場いっぱいにアピールしたい、私の存在。
 そう思えば、すぐに行動に移した。ユカはドラゴン花火を取り出し、地面に並べる。そしてマッチを擦る。急いで火を点けていく。
 ブシューッ!
 花火が噴き出す。勢いあまって、倒れたものもある。
 次々に噴き出す花火は、あたりを明るくした。
「おーい、あっちの花火、綺麗だぞ!」
 ユカのつけた花火を見た客が遠くで言い合っている。ユカの耳にも届く。
 花火はもうじきに消えるだろう。
 もっと長く浸りたいとユカは思った。花火はもうない。
 ユカは手に持つマッチ箱を、倒れたドラゴン花火の火に投げた。
 じりじりと箱が燃える。
 マッチ棒に燃え移る。
 完全に火がつくと、それはひとかたまりになった。
 炎がユカの笑顔を照らした。

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