小説

『橋の上、真ん中あたり』室市雅則(『橋立小女郎』(京都府))

 あの技は何なのだろう。一体、彼女は何なのだろう。
 こんな事があった後なので、さすがに彼女は帰るだろうと思っていたが、ずっと橋の真ん中にいる。何なのだろう。
 ずっと彼女を気にしながら、俺は歩行者に「すんません」と言ったり、作業員から頼まれて何に使うか分からない道具を手渡したりした。
 
 朝が来た。
 
 彼女も橋の真ん中で朝を迎えていた。結局誰にも相手にされなかったようだ。
 仕事の終わりが告げられ、リーダーおじさんが家まで送ろうかと声をかけてくれた。だが、俺はそれを断って、彼らを見送った後、橋の真ん中あたりへと向かった。山の向こうから顔を出した太陽が彼女を照らしていた。
 彼女は俺に気付き、笑った。
「お兄さん、一杯ご馳走してよ」
「一杯だけね」
「ほんまに?」
 俺が頷くと彼女は俺の手を握った。
 骨張ってゴツゴツした感触が俺の手を包んだ。
「どっち行きます?」
 俺は祇園の東側、木屋町の西側を交互に首を振った。
「お天道様に顔を見せなきゃ」
 東側に体を向け、太陽の正面を向いた。
 彼女の手が離れたことを合図にして、俺たちは並んで歩き出した
 彼女の横顔を覗くとファンデーションはパリパリに乾燥し、口の周りにうっすらと伸びた髭がそれを皮膚から浮き上がらせていた。
 眩しい。

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