小説

『涙の確証』加持稜誠(『竹取物語』)

 それからというもの、応援する・しないの自問が、僕の中で幾度となく繰り返された。その結果、結局前者に落ち着き、ついに僕もドルヲタの仲間入りを果たす事となった。
 正直抵抗もあったけど、その中で学べる事も少なくなかった。
 一つはドルヲタの中にも序列が存在する事。頂点に立つのはライブ設営も兼任する親衛隊。
 前回のスタッフっぽいヲタがそれに当たるようだ。常にファンの先頭に立ち、人生全てをオトギーズに注ぎ込んでいる。そしてライブの設営・物販の仕切りまでこなす、まさに彼女達のライブの成功には、欠かせない存在だ。しかしながら『愛』が強すぎる為か、ルールを知らない新参者や、奇抜な自己アピールをしようとするファンには非常に手厳しい。どんなに『愛』が深くても、彼らより彼女達に近づいてはいけない。そんな暗黙のルールが敷かれていた。正直彼らの存在を邪魔に感じるファンも少なくないが、彼らの貢献度を考えれば、致し方ない。ぼくもその口だったが、彼らを関係者として考える事で、なんとか湧き立つものを抑える事が出来た。


 そしてもう一つ。
 それはひたすらに『金』が掛かる事。
 彼女たちのライブは、チケット代のほぼが箱代に充てられる為、物販に財源を頼らざるを得ない。彼女たちの懐事情を理解するヲタ達は、わずか数円の原価のグッズに惜しげもなく、札束を投げ込む。それにより、『育てる』満足感に浸り、彼らの『愛』は深まっていく。自分達も決して裕福ではないにもかかわらず、バイト代全額彼女達につぎ込んで、己は清貧に徹する姿は涙ぐましくもある。そして僕でさえ、貯えに手を出すまでに至ってしまうのであった。


 そんなドルヲタ生活を始めて3か月。
 彼女達に初めて大きな舞台が用意された。
 それは某有名アイドルと共演できるという、彼女達には絶好のチャンスだ!
 その為には1か月後に控えた本戦ライブ終了までに、グッズ販売数、SNSでのフォロワー、いいね!、シェア数、さらにはウェブ上での人気投票も開催され、その総合計で1位にならなければならない。まさに血で血を洗う争いが僕らの前に勃発した。
 募る熱い気持ちとは裏腹に、擦り減ってゆく預金残高。
 僕も覚悟が必要だ。彼女達に自分の人生を捧げるという覚悟が……





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